スマートフォンの通信料金の値下げ圧力が強まる中、ドコモ、KDDI、ソフトバンクは、「非通信」ビジネスを開拓するのが喫緊の課題だ。本業の通信ビジネスには逆風が吹いており、自動運転やロボット、遠隔医療や建設機械などの分野で企業連携を加速させて、“スマホの次”を担う次世代の産業を生み出していく狙いがある。

 企業側の期待も大きい。トヨタ自動車とソフトバンクは18年10月にモネ・テクノロジーズを設立し、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)事業の立ち上げを進めている。この分野も、5Gでサービス拡大の可能性が開ける。

 トヨタは、同社のロボット「T-HR3」をドコモの5Gで遠隔操作する実証実験も行っているほか、KDDIともコネクテッドカーの車載通信機のグローバル化で提携関係にある。

 トヨタとKDDIは「IoT世界基盤」という仕組みで提携している。トヨタが世界中に出荷する車の車載通信機をKDDIが管理するサービスを19年度から始める。

 KDDIは日立製作所ともIoT世界基盤の構築で連携している。デンソーとは5Gによる産業用ロボット制御の実証実験に乗り出しており、製造業向けの5Gサービスの拡大に力を入れる。

 このほか、建設機械の遠隔操作では、ドコモはコマツと、KDDIは大林組と、ソフトバンクは大成建設と、それぞれ共同研究しておりグループ化が進む。

 5Gの医療分野の応用で実証実験に乗り出しているのは今のところドコモだけ。だがモビリティーや製造業、コンテンツなど各業界ごとに、通信キャリアと企業の連携が次々と生まれている。

携帯3社と楽天が参入
「ローカル5G」に新たなアイデアも

 非通信事業では、動画配信も最重要分野の一つだ。ドコモは米ウォルトディズニーの日本法人と提携し、3月26日から定額の動画配信サービスを始める。KDDIは18年8月から動画配信のネットフリックスの月額料金と通信料金をセットにしたプランの提供を始めた。2時間の映画を3秒でダウンロードできる5Gが本格化すれば、一段と需要が高まりそうだ。

 5G元年にあたり、ドコモは9月のラグビーワールドカップ(W杯)に合わせて5Gの試験サービスを開始する計画だ。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の映像配信を検討している。

 KDDIも9月からW杯の会場で5Gの試験サービスに参入する計画がある。ドローンで撮影した高精細映像をAIで解析して不審者を検知するスタジアムソリューションで、セコムと提携している。

 ソフトバンクは19年中に、福岡ソフトバンクホークスの本拠地のヤフオクドーム(福岡県福岡市)で5Gの試験サービスを始める計画で、VR映像サービスなどが構想されているようだ。

 このほか、今年10月から携帯事業に新規参入する楽天は20年から5Gサービスを始める計画だ。

 一方で総務省は、これら全国サービス事業者の4社以外にも、5Gの特性を産業用に利用したい企業に対し、エリアを限定して電波を運営できる「ローカル5G」の制度を検討している。

 工事現場や工場、駅や病院の中に独立した5Gの基地局を設置して、混雑がなく安全性の高いネットワークを構築しようという案だ。

 総務省が具体的に免許を割り当てる先は未定だが、19年中の参入が実現する方向だ。

 ローカル5Gの事業者は、パナソニックやソニーなど製造業のほかケーブルテレビ会社が候補とみられる。スマート工場内に専用の基地局を設置すれば混雑を防ぐ安全なネットワークが構築できるほか、高速道路沿いに細かく基地局を設置すれば自動運転の実現が早まる。有効活用のアイデアが膨らんでいる。

 5Gという応用範囲の広いネットワークの運用に携帯キャリア以外の事業者が参入することで、革新的なビジネスを生み出すプレーヤーの登場が待たれる。