これはNTTドコモと前橋市が2月15日に実施した、救急搬送に5Gを活用する全国初の実証実験の光景だ。
市役所の最上階には実際に5Gの基地局を設置。会議室を救急病院に見立て、走行中の救急車やドクターカーと5Gの通信網でつないだ。会議室のモニターには、患者の映像や心拍数、エコーなどの診断用の情報が瞬時に届く。
参加した前橋赤十字病院の中村光伸救急科部長は、「画像が実際に見ているかのように鮮明。従来は救急隊が口頭で伝えていた患者の容体を自分の目で確認できるので、受け入れ態勢を整えやすい。患者が到着してから指示を出すのと比べ、5~10分は早くなりそうだ」と期待を寄せる。
未来の医療を実現してくれそうな5Gだが、意外なことに、通信キャリア3社で本格的に取り組んでいるのはドコモだけだ。ある通信大手の幹部は、「地方の診療所と大病院をつなぐだけならば、固定の光回線で十分。5Gでしか実現できない用途を考えることは意外と難しい」と打ち明ける。
その意味で、救急搬送中の通信という使い道を示したドコモは、一歩リードしているといえるだろう。ただ、遠隔手術になると、ハードルはぐっと上がる。ドコモの中村武宏5Gイノベーション推進室長は、「遠隔手術にも挑戦したいが、実現するための医療機器がまだ十分ではない」と語る。
とはいえ、中国では1月に5Gを使ったブタの遠隔手術を実施。MWCでも中国移動通信が、傷つけてはいけない部位に近づくと振動で警告する遠隔手術器具を展示していた。
信頼性が求められる医療現場で5Gが普及するのはゆっくりかもしれないが、着実に進むだろう。