【北京】ドナルド・トランプ米大統領が中国に対し関税を巡る圧力を強めたことで、中国の習近平国家主席は厳しい立場に追い込まれている。米政権に屈したとの印象を与えることなく、いかに通商交渉を継続しつつ中国景気を下支えしていくかという、難しいかじ取りを迫られることになる。
トランプ氏が5日、ツイッターで突如、対中関税引き上げを予告したことで、今週予定していたワシントン訪問での交渉妥結を目指していた劉鶴副首相(経済担当)主導の中国交渉団は不意を突かれた。関係筋によると、中国指導部は6日、交渉団の派遣取りやめを検討した。中国はこれまで脅しの下では交渉しないとの立場を示しており、従来の方針を堅持した格好だ。
外務省の耿爽報道官は6日、中国の交渉団は依然として「訪米して協議を行う準備を進めている」と説明したが、いつ米国に出発するのかや、劉氏が引き続き交渉団を率いるのかについては明らかにしなかった。
交渉は当初、8日に再開される予定だった。中国側の事情に詳しい筋によると、実務者レベルの中国当局者は6日に米国に向けて出発する予定だったが、出発を見送り、一段の指示を待っている状況だとしている。
中国当局者は、できる限り早期の交渉妥結が国益にかなうと考えている。昨年終盤には、企業や投資家の信頼感が通商摩擦で深刻な打撃を受けており、当局はここ数カ月、成長を安定させるため積極的な景気刺激策の導入を迫られた。そのため、習氏は景気刺激にかじを切ったことで、債務圧縮や環境汚染対策など、長期的に経済の健全性を高める措置を縮小せざるを得なかった。
通商摩擦の激化懸念が再燃したことで、週明け6日の中国株式市場は急落。年初の上げを一部失った。
習氏は、国有企業首脳や産業政策推進派など既得権益層から、米政権に譲歩し過ぎるのではないかとの高まる懸念に直面している。中国交渉団は最近の協議で、クラウド市場への外資参入など、これまで「聖域」とみられていた分野でも譲歩案を示しているが、米国側は不十分と判断している。
ある中国の規制当局者は「中国への圧力を強めれば、国家主義的なムードを高めるだけだ」とし、「合意の実現に全く寄与しない」と話す。
中国メディアは6日、関税を巡るトランプ氏の脅しについて、総じて大きく取り上げていない。ソーシャルメディア上では、米中の緊張再燃を巡るコメントを検閲で削除しているとの不満が出ている。中国は米国との通商摩擦が激化して以降、一貫してメディア規制を敷いている。投資家がパニックに陥るのを防ぎ、中国指導部に悪影響を及ぼしかねない反米感情を抑制するためだ。
トランプ政権が1年前に通商政策を巡り一連の要求を突きつけて以降、中国国内では強硬派の論調が勢いづいている。トランプ政権は2年以内の対中赤字2000億ドル(約22兆2000億円)削減や先端技術への補助金停止など、多くの要求項目を策定した。
共産党内などの国家主義派は、米政権は通商紛争を使って中国の台頭を抑えるとともに、数十年にわたる成長を生み出してきた国家主導の経済モデルを損なう狙いがあると みている。こうした中、トランプ政権が国家を背負って立つ華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)をイラン制裁法違反でカナダ当局に逮捕するよう要請し、スパイ疑惑を理由にファーウェイ製品の排除を世界各国に求めたことで、反米感情が一段と高まった。
最近の通商協議では、合意履行の検証が争点となっている。中国側は合意に達した時点で、現行関税の解除か、少なくとも引き下げるよう求めているが、米国側は関税を維持し、中国による合意条件の履行を受けて解除したい考え。米国はまた、中国が報復関税を発動することを禁じる一方、中国が合意を履行しない場合には、米国が関税を再発動する権利を維持することを主張している。
関係筋によると、中国は劉氏をワシントンに派遣するどうかの最終判断を下す前に、トランプ氏のツイートの真意を見極めようと、米国側に明確な説明を求めている。
中国外務省の耿報道官は、米国はこれまでにも「何度も」関税発動をちらつかせたとし、双方ともに合意達成に引き続き注力すべきと述べた。また先週北京で行われた交渉では、大きな進展が見られたとの認識を改めて表明した。
ただ、ここ最近、米中交渉の行方を伝えてきた中国のソーシャルメディアアカウント「タオラン・ノーツ(Taoran Notes)」は、先週の交渉が終了した翌日、背後で状況が緊迫していることを示唆していた。
同アカウントは、「一方が自らの要求のみを考え、極度の圧力で他方を服従させ、公正さを無視するよう迫ることができると考えているのであれば、交渉決裂以外に可能性はない」と主張。中国国営の新華社通信もこの投稿内容を報じていた。



