明治維新の理念をカタチにした 前島密の構想力
『明治維新の理念をカタチにした 前島密の構想力』 加来耕三 著 つちや書店 1450円(税別)

 実は、150年前にも同様の構想があった。明治維新に伴う「郵便事業」だ。後に、国民の重要な通信インフラとなる郵便事業の構想を描き、その実現に尽力したのは、本書『明治維新の理念をカタチにした 前島密の構想力』の主人公、前島密(まえじま・ひそか)である。

 本書は、前島が、明治維新後の日本の未来をどのように描き、行動したかを綴るノンフィクションだ。

 著者の加来耕三氏は歴史家・作家。『幕末・明治の英傑たち』(つちや書店)、『海援隊異聞』(時事通信出版局)など多数の著書がある。

 1円切手の肖像でも知られる前島密は、越後国の豪農に生まれ、幕臣であった前島家の養子になる。明治維新に伴い政府に出仕し、近代国家の樹立に向けた変革の実務を、大久保利通や大隈重信の元で推し進めた。

 前島は、郵便事業だけでなく、新聞や電話、さらに鉄道事業や海運業の実現にも尽力している。加来氏の言葉を借りれば、これらの事業はいずれも「いつでも、どこでも、誰でも、自由に、どこにでも往来できる社会」という、新しい時代のあり方を具体化するものだ。

 この「いつでも、どこでも、誰でも、自由に、どこにでも」は、現代のインターネットによる情報のやりとりにも通じる。つまり前島は、150年も前にインターネット社会にもつながる構想を描いたといえるかもしれない。

 前島の構想と、実現までのプロセスは、どのようなものだったのだろうか。

未来像から逆算する「バックキャスティング」を
150年前に実践

 加来氏の分析によれば、前島密の構想力は、以下の3ステップで発揮される。

・まず全体像を描く。目的は何か。
・最短距離で到達できる方法を考える。
・逆算するように、そのための仕組みを創っていく。

 この3つを確実にこなすには、大局観、先見性、洞察力、そして何より実行力が求められる。

 理想とする未来像を先に描き、そこから逆算して何をするべきかを考えるという方法は、今でいう「バックキャスティング」と同じものだろう。

 バックキャスティングという言葉が知られるようになったのは、1997年にスウェーデンの環境保護庁が「Sustainable Sweden 2021(2021年の持続可能性目標)」というレポートで使用してからだ。それ以来、国や企業などが長期ビジョンを作成する際によく用いられる。

 それだけ見ても、前島の先見性がうかがえる。