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AI時代の到来だから、働き方や雇用の在り方を見直すのでは遅過ぎる Photo:iStock/gettyimages

 日立製作所会長で、日本経済団体連合会会長を務める中西宏明氏が「終身雇用はもう守れない。制度疲労を起こしている。雇用維持のために(不良)事業を残すべきではない」と発言して物議を醸している。だが、すでに終身雇用は崩れかけているのが現実だろう。

 企業経営トップや幹部に聞くと、今や入社後3~5年で約3割の社員が辞めていくという。彼らの転職先は大手企業ばかりではなく、ベンチャーが急速に増えている。

 そしてこの傾向は、新卒学生の就職にもいえることだ。以前シリコンバレーに駐在し、現在日本経済新聞編集委員の奥平和行氏が、東京大学卒業者のIT(情報技術)エンジニアの就職先の変遷を調べたところ、1990年代は大手通信会社や電機・家電大手への就職がほとんどだったが、2008年にはグーグルが上位に登場し、その後はスタートアップ企業が目立つようになったという。

 学生たちがスタートアップをキャリアの第一歩に選ぶ理由は「最初から仕事内容が明確で、しかも自分のキャリアを描きやすい」からだという。彼らにとっては自分のキャリア設計が先で、それに雇用という概念が付いてくるのだ。既存の大手企業のように、下積みの仕事が長く続き、終身でのキャリアづくりを企業に預けてしまう発想はもう存在しない。

 終身雇用の仕組みには理にかなった点もあった。終身雇用が保証されている組織では、昇進していく管理職がよく働く部下を自在に使うことができたので、事業成長に合わせ、企業内での柔軟な人員配置が可能だった。

 それによって、技術革新の導入を容易にした面も無視できない。人員の配置転換が容易なので、技術革新による失業への脅威を感じずに、常に新しい事業に機動的に人員配置ができたのである。

 終身雇用が機能的に働いたのは、経済が右肩上がりだったからである。現在は残念ながら、そんな時代ではない。前述した学生のキャリア観の変化もあり、終身雇用の崩壊、組織内における機能不全は明らかだ。

 そんな中、12年にディープラーニング技術の革新によって一挙にAI(人工知能)の実用化が現実的になり、経営改革の議論が活発になった。ビッグデータの普及により、膨大なデータを分析して人間の能力を補い、単純な仕事をAIが代替することにより生産性が飛躍的に改善されるのではないかというものである。AIによる変革で、働き方や働く人の意識改革が必要になるということだ。

 うがった見方をすれば、企業経営者は「AI時代の到来」を錦の御旗に、仕方なく日本的経営にメスを入れ、終身雇用や年功序列を変えようとしている。AIが黒船のような存在として捉えられているのだ。だが、ちょっと待ってほしい。本当にそうだろうか?