今や韓国では「インターネット民主主義」が定着しています。議員立候補者がツイッターやフェイスブックなどSNSを通して、有権者に直接訴えかけて支持を集めたり、インターネットによる書き込みなどを通して、世論が形成されたりしています。その一方で、選挙に出るとプライバシーがすべて公けになり、インターネットを通じて公開されてしまうといった問題も発生しています。今回は、現在の韓国におけるインターネット民主主義の実情をお話しましょう。

選管のウェブサイト攻撃が事件になったソウル市長選

 2006年から昨年8月までソウル市長を務めた呉世勲(オ・セフン)氏の市長辞任をめぐる動きは、インターネットの力を見せ付けられるできごとでした。

 2011年に、野党の民主党が、市内の小・中学校すべての給食を無償化することを議会に提案して可決されました。当時の呉市長は、裕福な子どもの給食まで無償にするのはおかしいとしてこれに反対し、住民投票をすることになりました。しかし住民投票の場合は、投票率が33.3%を超えないと、開票すらされません。与党は投票を呼びかけ、一方の野党は投票のボイコットを呼びかけました。

 結局投票率は約25.7%と開票基準に満たなかったため住民投票は成立せず、住民投票で負けた場合には市長を辞任すると宣言していた呉氏は市長を辞任することになったのです。これは、翌年に総選挙や大統領選挙を控えた与党ハンナラ党に大きな打撃となりました。

 呉氏辞任を受けて行われた市長補欠選挙では、与党候補の国会議員、元判事、羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)氏と、野党候補の市民運動家、朴元淳(パク・ウォンスン)氏の対決になりました。

 ところがここで与党は手を回し、先に行われた住民投票の際に割り当てられた投票所を大幅に変更してしまいました。そのため、住民は自分の投票所がどこなのか、よく分からなくなってしまいました。とはいえ、選挙管理委員会のホームページでは、自分の番号を入力すると自分の投票所を検索できるしくみになっていました。

 ところが、通勤時に期日前投票をする人々が多い韓国で、投票所を確認しようとする朝の時間帯に限って、選管のホームページがダウンしてしまうという現象が起きたのです。調べたところ、与党である国会議長の秘書とソウル市長選対策責任者である国会議員の秘書が共謀し、外部の業者を使ってDDoS攻撃を仕掛けていたことが分かったのです。その結果、秘書2人は逮捕、国会議長と国会議員の2人も責任を取って辞任せざるを得ませんでした。そしてそれにより、投票率は飛躍的に高まり、与党は惨敗しました。
※多数のコンピュータから大量の処理負荷を与え、サーバーの機能を妨害すること。

 韓国では、選挙運動や選挙管理の多くがインターネットを通じて行われるため、こうした事件は人びとの選挙行動に大きな影響を与えるだけでなく、大きな批判を浴びることにもなりました。

ソウル市長選挙を揺さぶったDDoS攻撃――韓国インターネット民主主義の光と影(前編)朴元淳ソウル市長。ソウル市長室の壁には、市民が要望事項を書いたポストイットが貼られ、一つずつ解決していくごとにはがされていく。