日本一のクルマ社会である福井県で、鉄道利用者が大幅に増加している。全国の地方鉄道が苦しんでいる中、どのようにして利用者を増やしたのか?福井県のケースは、全国の悩める地方鉄道にとって大いに参考になるはずだ。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

地方鉄道苦境の時代にあって
「利用者数ほぼ倍増」

えちぜん鉄道の車両定期券利用者数をほぼ倍増させた「えちぜん鉄道」。地方鉄道苦境の時代に、どうやって利用者を増やしたのだろうか? Photo:PIXTA

 福井県の地元紙・福井新聞が「クルマ社会の福井県で電車通勤が増加」と報じたことが話題だ。しかも並大抵の増加ではない。私鉄「えちぜん鉄道」の通勤定期券利用者数は2004年の約37.8万人から2018年度の74.7万人へほぼ倍増、「福井鉄道」も17.4万人から38.2万人へと2倍以上に増加したというから、地方鉄道苦境の時代に異例の急成長である。

 福井新聞の見出しの通り、福井県はクルマ社会だ。しかも「日本一のクルマ社会」である。自動車検査登録情報協会によると、1世帯当たりの自動車保有台数は全国平均1.058台(2018年1月1日現在)、最下位の東京0.439台に対して、福井県は1.746台で全国1位。また警察庁によれば、2018年の人口10万人当たり交通事故死者数のワースト1位も福井県の5.26人だという。

 過度なクルマ依存に対する危機感から、福井市は2009年に市民本位の公共交通構築を目指した「都市交通戦略」を策定。県も2011年に「クルマに頼り過ぎない社会づくり推進県民会議」を設立し、「不必要な利用を見直し」「クルマは皆でつかう」「新時代にふさわしい社会」を基本方針とするアクションプランを策定した。引き続き「日本一のクルマ社会」ではあるものの、冒頭の電車通勤者数の増加は、こうした取り組みの成果と見ることができるだろう。

 同様の「脱マイカー」「公共交通利用促進」キャンペーンは全国各地で行われているが、これだけの成果につながることはまれである。クルマ中心の社会に問題や限界があることは分かっていても、便利で快適なマイカーからの脱却は容易ではないからだ。では、なぜ福井県の取り組みは成功を収めているのだろうか。

 福井市の人口は約26万人と県庁所在地では8番目に小さいが、7市4町から構成される福井都市圏全体では約64万人にもなる。南北に長い福井平野に連なる、福井市、鯖江市、越前市の人口集中地区をJR北陸本線とえちぜん鉄道・福井鉄道が縦貫する。駅間の長いJR北陸本線が都市間輸送、駅間の短い両私鉄が都市内輸送を中心に担うことで共存しているのは、鉄道輸送に適した都市構造だからこそだろう。

 しかし、全線にわたって幹線道路が並行するえちぜん鉄道・福井鉄道は、モータリゼーションの進展とともに輸送人員が大幅に減少。近年はバス利用者すら減少し、マイカー利用が増えていた。この時計の針を逆回転させて、マイカーから鉄道に再び移行させるのは簡単なことではない。