過去に眠る大きな機会、掌中のイノベーション
ほとんどの経営者は、イノベーションは100%新しいものでなければならない、と考える。理想的には世界じゅうでだれも見たことがないものであり、最低でも、その企業にとって新しいものでなければならない。
だが、たいていの企業では、過去の取り組みのなかにイノベーションや市場開拓の機会が眠っている。このイノベーション予備軍こそ、ことわざ「掌中(しょうちゅう)の1羽は、叢中(そうちゅう)の2羽に値する」の1羽である。
すでに取り組み終えたものであるからして、当然、リスクは低い。価値をうまく再認識できれば、迅速に、大きなリターンが望めるのである。
〈コンバート・トゥ・ドリップ〉シリーズの場合、掌中の1羽は、発売から数年経過していた〈DC-6〉だった。同社の製品は基本的に、ドリップ式とスプレー式の2種類である。〈DC-6〉はドリップ式だが、思わぬ能力を持っていた。スプレー式ヘッド・ノズルを換えるだけで、通常のスプリンクラーをドリップ式に切り替えられるのである。
ある時レインバードは、得意先の小売店でただならぬ現象が起きているのに気づいた。〈DC-6〉の売上げが突然跳ね上がっていたのである。どうやら、その小売店の担当者が〈DC-6〉をドリップ製品ではなくスプレー製品の棚に置いたらしい。
この予期せぬ売上増により、レインバードは、スプリンクラーをドリップ式に変えたいと考えている顧客の数を過小評価していたことに気づいた。
後は、この新たな知見を利用すればよかった。製品の名称やキャッチ・コピーを変更し、機能に応じて製品のポジショニングを見直した。コンセプトも拡大し、樹木・低木、菜園、多目的エリア(プランターや芝生を配した場所など)で水やりをする顧客ニーズに注目、多様なバリエーションを用意した。
〈コンバート・トゥ・ドリップ〉の成功は、既存の資産を活用したイノベーションが、いかに利益を拡大しやすいかを物語っている。もちろん、隠れた可能性を見出すのは簡単ではない。本稿では、我々がさまざまな企業で目にした6種類の「掌中のイノベーション」と、それらのチャンスを体系的に探す方法を紹介しよう。