2 顧客ニーズの動向を見極め持てる能力を再評価する
掌中のイノベーションは、市場で発売されなかった製品だけでなく、実際に発売されたものの、その特徴が十分には受け入れられなかった製品からも、もたらされることがある。
製品開発チームは常に、提供する価値を最も簡潔かつ魅力的に表現しなければならない。いきおい、その製品だからこそ満たせる重要な顧客ニーズのみに焦点を絞ろうとする。たいていの場合、新製品のメリットすべてを伝え切ることはできない。独自の特徴について言えることが10あるとすれば、7つは言及されずじまいである。
しかし時が経てば、以前はさほど重要でなかった顧客ニーズが一躍、重視されるようになっているかもしれない。新しいニーズに応える製品を、企業はすでに持っていることが多い。単に製品が認知されなかっただけということもあるが、多くの場合、その特徴や技術力が見過ごされていたのである。
レインバードが革新的なスプレー・ノズル、〈デュアル・スプレー〉シリーズを出した当初のセールス・ポイントは、「水やり範囲」の問題を解決するということだった。
スプレー式のスプリンクラーを使ったことがある人ならわかるだろうが、スプリンクラーが回転しながら芝生に広く散水する際、ノズルに近い場所には水がかからず、「撒き残し」部分ができる。同社はその範囲にも水を撒けるよう、第2の開口部をノズルにつけたのだ。このイノベーションには、同じ面積をカバーするのに必要な水量が減るという副産物もあった。
現在でも「撒き残し」問題は顧客の頭を悩ませているが、一方で「水の節約」に大きな関心が集まるようになっている。多くの自治体が水の使用制限を課すようになった昨今では、なおさらである。
そこでレインバードはポジショニングを見直し、〈デュアル・スプレー〉シリーズの効率面を積極的に宣伝するようになった。もともと持っていた能力である掌中のイノベーションを、小売店向けの販促でより目立たせるようにしたのである。すると小売店も見方が変わり、より的確な場所に陳列したり、バンドリングを活用したりするようになった。
さて、どうすれば、現在のソリューションのなかに隠れている革新的な機能や特徴を発見できるのだろう。最もよい方法は、顧客ニーズの優先順位をたえずアップデートし、既存製品の能力を再評価することである。好都合なことに、社内の製品マネジャーはそのために必要な技術的な知見をすでに持っている。
大切なのは、現在の顧客ニーズのみならず、将来求められうるニーズを見極め、顧客にとっての重要性がどう変化していくかをつぶさに観察することである。顧客がやろうとしている仕事や作業(レインバードの場合は、芝生への水やり)に焦点を当て、ある製品がどれだけこなせるかを評価する基準(撒き残し部分の極小化、水の使用量の削減といった望ましい成果)を定めなくてはならない。
こうした基準を定期的に調べることで、時代を先取りしうる特徴を発見することができる。