3 想定外の動きに着目し提案方法を見直す

 では次に、レインバードが〈DC-6〉で見出した掌中のイノベーションを見てみよう。

 時に、製品はそのマーケティングのいかんにかかわらず(ある程度は)成功することがある。製品を売り出したものの、顧客がなぜそれを選び、どのように使うかを企業側が十分に理解していない場合である。

 もちろんマーケティング担当者は、顧客がその製品を使って行う仕事を理解し、製品のポジショニング、ブランド、メッセージと結びつけるのが理想である。とはいえ、製品と仕事とのつながりを常に明確にできるとは限らない。顧客が自力で発見しなければならないこともあり、また幸いにも、実際に発見することがある。

 顧客はパンフレットの細かい説明を読んだり、友人と話をしたり、あるいはインターネットで情報交換したり(最近ではこれが最も多いかもしれない)、といった形で、たとえ企業側が公表していなくても、ニーズを満たしてくれる製品を見つけている。

 そうした動きを見つける最初の手がかりは、広告等の販促活動をしていないのに人気に火がつくなど、販売レーダー上、普段とは違う動きが現れたところにある。売上げが想定外に伸びる時は、その裏に、製品の重要性を高めてくれるような外部の動きが働いていることが多い。

 たとえば2011年3月、カリフォルニア州の健康食品店で昆布が突然、飛ぶように売れ出した。日本の原発事故から漏れた放射能を恐れた消費者にとって、甲状腺がんの防御策の1つとして、昆布に含まれるヨウ素がいきなり価値を増したからである。

 前述のレインバードの場合、スプレー・ノズルをドリップ式に変えたいというニーズを〈DC-6〉が満たしうるということは、企業側ではなく、顧客が自力で発見した。

 〈DC-6〉は、スプレー式製品の顧客が店内で探しそうな場所に置かれていなかった。パッケージも、製品がこなす仕事に注意を喚起するものではなかった。カタログ番号そのままのような、アルファベットと数字のそっけない製品名からして、戦略的展望が不十分だったことは明らかだった。

 これは他人事ではない。あなたの会社も、展望が足りないせいで製品を十分に活かし切れていないかもしれない。

 この類の掌中のイノベーションを見つけるには、以下のように自問するとよい。

 製品と、製品がサポートする顧客の仕事とのつながりは明確になっているか。顧客の仕事のうち、発売後に重要性が増したものはないか。もしあるなら、それをサポートできる既存製品はないか。

 逆方向から問うこともできる。どんな製品に予期せぬ用途があるか。製薬業界で言う、どのような「適応外使用」が見つかったか。もちろん、医薬品のように厳格な規制がある場合、それが無分別な行為であれば、企業はすすんで阻止しなければならない。

 しかし、思いも寄らない方法で、かつ合法的なやり方で顧客が製品を使っているのであれば、イノベーションの芽として検討してもよいかもしれない。ブランドやメッセージをその新しい用途に合わせるだけでもよい。

 あるいは、顧客がやろうとしている仕事に合わせて既存製品を最適化することもできる。