1 発売に至らなかった案件を振り返る
革新的な製品が導入される時には、必ずやいくつかの好条件がそろっているものだ。市場ニーズを満たすことはもちろん、価格、技術的な性能、チャネル訴求力など数多くの点を検討しなければならない。
アイデアは優れていても製造コストが高すぎる、技術上のハードルを克服できないなどの理由で実現しなかった製品もあれば、革新的なコンセプトながら、重要なチャネル・パートナーの目標に合致しなかったために却下されたもの、実現可能にもかかわらず製品ライン全体から見てお蔵入りとなったものもある。
それらの製品コンセプトは完全に忘れ去られることはないとしても、敗者の烙印を押されて排除されがちである。しかしほとんどの場合、開発に費やされた多大な時間と資金は、(コンセプト全体ではないとしても、その一部で)何か有益なものを生み出している。そして、その「何か」は、今日必要とされているものかもしれない。
2004年に発売されたリョービの集塵(しゅうじん)機能付き10インチ帯のこぎり〈サイレント・バック〉がそうである。顧客にとっては新しいコンセプトだったが、リョービにとっては古いアイデアだった。もう何年も前に、発売に至らなかった卓上研磨機向けに開発されていたからだ。
もちろん、市場投入を断念した後に復活させることができるのは、技術的なイノベーションだけではない。プロモーション戦略から工業デザインまで、多数の新しいアイデアを新製品に採り入れることができる。
リョービが2007年にリチウム電池を用いた電動工具〈One+〉を発売した際も、やはり1度お蔵入りになったプロジェクトの成果物を活用した。この新工具は性能面では優れていたが、見た目のインパクトに欠けていた。ホーム・デポの買い物客は、興味は持っても心ときめくことはなかった。
そこで同社は、かつての製品ライン用に実施された色彩調査の結果を〈One+〉に転用することにした。調査で好結果を残したネオン・グリーンは、成功した〈One+〉シリーズの際立った特徴となっている。
この経験から言えるのは、却下された製品コンセプトをきちんと管理し、振り返る癖をつけなければならないということである。現在のプロジェクトや業界の変化に照らして、何か新しい可能性はないか。別の市場に適用できる革新的な特徴がなかったか。そのイノベーションがものにならなかった理由は、いまでも当てはまるか。
技術的ハードルは技術進歩によって、製品原価の問題も製造プロセスの進歩によって克服できる。わずかな投資をするだけで、革新的な製品を市場に送り出せるかもしれないのだ。