7月28日に放映されたTBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』の第3話では、大泉洋さん演じる主人公・君嶋隼人のまわし姿がSNSで大いに盛り上がったが、番組終了後には、「泣いた」、「神回」との投稿が相次いだ。タレントや現役ラグビー選手たちからもたくさんの賛辞が贈られており、彼らの心をここまで熱くしている理由はいったいどこにあるのか?
今回は高校時代から花形選手として輝かしい実績をあげ、プロ選手としても活躍した齊藤祐也さんに、トキワ自動車「アストロズ」のフランカー、背番号6番の安西信彦を演じる思いを語ってもらった。(文/向 風見也)
――元ラグビー日本代表の齊藤祐也さん演じるのは、アストロズのベテラン選手、安西信彦。撮影現場はどんな雰囲気ですか?
すべてが新鮮です。ひとつのものを作り上げるためにそれぞれが役割を果たしています。カメラさん、技術さんが一生懸命に働く姿を見ることで、出演者の自分も「もっと練習をして高いパフォーマンスを出したい」とモチベーションを上げています。
現場での福澤(克雄)監督は、ラグビーのシーンを撮る時の指示も的確。まるで常勝チームの監督のようです。劇中のアストロズのメンバーも、数名いるラグビー未経験の役者さんを含め、徐々にひとつになってきています。
1977年生まれ。 ラグビー元日本代表。高校からラグビーを始め、サントリー、コロミエ(仏)、神戸製鋼、豊田自動織機でプレー。引退後は、株式会社Ychante,株式会社コーディネーション・アカデミー設立。
――初のドラマ出演ですね。撮影は大変ですか。
初めは台本から受ける印象と実際にそのシーンを撮る現場の雰囲気にギャップを感じ、悩んだりもしました。しかし主演の大泉さんから、その場面ごとの雰囲気をわかりやすく伝えていただき助かっています。
――大泉さん演じる君嶋隼人は、アストロズのGMという仕事に段々とのめりこんでいきます。
大泉さんも最初のうちは、選手役の体育会系の僕らに対して、「君たちみたいな人は得意じゃない」という空気を放っていました(笑)。ところが次第に僕たちとのコミュニケーションを増やし、1話のオンエア後には「みんなのラグビーのパフォーマンスが本当に素晴らしかった!」と言ってくれた。普段から本当のGMのようです。
キャプテンの岸和田徹を演じる高橋光臣も、まさに撮影現場のキャプテン。20~30人のアストロズのメンバーが、光臣の「始まるよ!」というひと声でカメラ前にパッと集まります。僕は現役時代にいろいろなチームに在籍し、キャプテンも経験しましたが、光臣のような求心力は簡単には身につかないと感じます。
――安西は第3話で、チームが取り組むボランティア活動に複雑な気持ちを抱いていました。
僕は現役引退後、実際にトップアスリート育成を目指してスポーツ教室を作りました。性別や足の速さ、体格を問わずいろいろな子どもが集まってきてくれたんですが、設立2年目のときです。教室に女の子を通わせてくれていたお母さんが涙を流して、「うちの子が家で笑うようになった」と話してくれたのです。運動の苦手だった子どもが、自分から公園でトレーニングをするようになったという話も聞き、一生懸命になる楽しさを伝えられるのがスポーツの良さだとあらためて思いました。
ところがアストロズでの安西の思いは、「こんなことをする意味があるのか?」です。積極的にボランティアをしてもなかなかファンが増えず、自問自答しているようなところがあった。グラウンドではプレーでチームを引っ張るものの、グラウンドの外ではチームの方針に疑問を抱いていたのですが、子どもたちの笑顔が安西の心を変えていった。現実の自分と重なる部分がありました。