阪急阪神ホールディングスは10月、梅田駅を「大阪梅田」駅に改称することを発表した。この例だけでなく、不慣れな旅行者のために駅名を変えて認知してもらおうという動きはあちこちで起きている。駅名を変えるだけで、劇的に利用者サービスが向上するケースもあるのだ。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

「大阪駅」か「梅田駅」か
駅名を巡る歴史的背景

阪急梅田駅地理に不慣れな旅行者にとっては、「梅田」だけだとわかりにくい。そんな事情から「大阪梅田」駅に改称されることになった Photo:PIXTA

 阪急阪神ホールディングスは7月30日、阪急電鉄と阪神電鉄の梅田駅を「大阪梅田」駅に、阪急京都線の河原町駅を「京都河原町」駅に変更すると発表した。他2駅とあわせて、10月1日から改称する。

 両駅はもともと観光客が多い駅であるが、特に急増する訪日外国人旅行者にとって、梅田は大阪、河原町は京都であるということが分かりにくい。従来から車内アナウンスでは「大阪梅田」と案内をしていたものの、効果は薄かった。どこに向かうのか分からない列車は選択肢から外れやすいのだ。利用者数が減少傾向にある関西私鉄にとって、外国人旅行者需要の取りこぼしは死活問題であるから、両駅が大阪、京都の中心部に位置するターミナル駅であることを分かりやすくするため、伝統ある駅名の改称に踏み切った。

 鉄道開業当時、駅は江戸時代以来の市街地を避けて町外れに設置されることが多く、実際に大阪駅は1897年に大阪市が市域を拡張するまで市外に置かれていた。地名を冠する駅名は、地域の中心地であることを示していたのではなく、その地域の玄関口であることを対外的に示す、いわば表札として機能していたのだ。

 ところが明治末から大正にかけて、人々が長距離移動だけでなく都市内や近郊からの移動にも鉄道を使うようになると、駅名の表札としての役割にも変化が生じる。1906年に阪神電鉄、1910年に阪急電鉄がそれぞれ、大阪駅に乗り入れる際、「地元からすればキタもミナミも上町も全部大阪だ」ということで、両社のターミナルは梅田駅とされたのである。

 国鉄(JR)の「大阪」に対して、私鉄・地下鉄が「梅田」を名乗り続けたのは、私鉄の誇りであり、半ば意地もあったのだが、再び対外的に「大阪」が玄関口であることを示さねばならなくなったというわけだ。