中内功・ダイエー社長

 かつて、「ダイエー・松下戦争」と呼ばれた対立があった。

 発端は東京オリンピックが開かれた1964年、ダイエー創業者、中内功(1922年8月2日~2005年9月19日:「功」は正しくは右側が「刀」)が、松下電器産業(現パナソニック)の商品をメーカー希望小売価格から20%引きで販売したことだった。それに対し松下は、ダイエーへの出荷を停止し対抗、ダイエーはそれを独占禁止法違反として告訴……という事態に発展した。

 当時の松下は、全国津津浦浦に特約店(街のでんきやさん)を組織し、価格の維持による適正利潤の確保による特約店との「共存・共栄」を標榜していた。しかし、「流通革命」「価格破壊」を旗印に掲げる中内氏はそもそも価格決定権をメーカーが持っていることに異を唱えたのである。

「松下、ソニーに徹底挑戦する」と題されたこのインタビューは、すでに“戦争”が始まって久しい1969年11月17日号に掲載されたもの。その直前である11月8日、米国流通業界の視察から帰国したばかりの中内氏に、改めて考えを述べてもらったというものである。そもそも中内氏が価格決定権にこだわるようになったのは、米国で見聞を深めたのがきっかけだった。記事中でも、米国ではとっくにメーカーによる管理価格が崩壊しているという話を披露している。

 また、ちょうど今取り組んでいることとして、「われわれの考え方を少しでも理解してくれるメーカーと手を組んで、消費者の需要に見合った商品を、われわれ自体のマーチャンダイジングでつくっていく」とも明かしている。実際、この記事の翌年となる1970年、ダイエーはプライベートブランド「BUBU」の名称を冠したカラーテレビを、当時の大手メーカー製品の半値に当たる5万9800円で販売し、話題を呼んだ。

 だが、こうした取り組みによって松下との対立はさらに深まった。中内と松下幸之助(1894年11月27日~1989年4月27日)、すなわち両創業者同士のトップ会談も何度か行われたが、両者が和解することはなく、最終的に両社の間で取引が再開したのは、幸之助が亡くなって5年後の1994年だった。

 そして21世紀の現在、価格決定権はメーカーではなく消費者が握っているといってよいだろう。特に家電製品ではオープン価格という手法が主流となり、メーカーは出荷価格を決めるのみで、販売価格は小売業者が消費者と向き合いながら自由に設定できる。30年に及んだ「流通の革命児」と「経営の神様」による“戦争”は、価格は店頭で決まるべきという考え方を最後まで捨てなかった中内の勝利だった。(敬称略)
(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)

価格というものは
店頭で決まるべき

1969年11月17日号1969年11月17日号より 拡大画像表示

 なぜ松下・ソニーに挑戦するのか。簡単にいえば、管理価格によって松下、ソニーがもうけすぎているということです。

 1社で700億円の純益を上げるのがいいことだという点は分かります。しかし、それを支えているのは一般消費者大衆です。

 大メーカーは、お客さんに対してより安い値段で、品質のよりいい物を供給するという義務を持たなくてはいけない。大量生産によるメリットを、もっと消費者に還元すべきだと思う。今のように管理価格をつくっている理由が、われわれから見ると全く分からないわけです。

 松下の管理価格の問題というのは具体的には、今、公正取引委員会で審査中のいわゆる“ヤミ再販価格制度”のことです(編集注:67年7月に公取委から、小売業者に対し不正に再販売価格維持を強要するヤミ再販行為があるとして松下電器に排除勧告が出されていたが、当時松下側は事実を否定していた。その後71年に消費者団体の不買運動もあり、松下側が折れるかたちで認めた)。それによって家電業界は、松下を頂点としたプライスリーダー制がとられていて、家電の値段は暗黙のうちに了解点ができています。

 現在、家電の値段は、メーカーが発表しているリスト・プライスと、現実に売られている値段に相当の格差が出てきている。それにもかかわらず、流通段階には、それをはっきり言う人が誰もいない。メーカーが発表する定価と現金正価、月賦の価格、実勢価格、それからわれわれの決めている実質的価格といろいろな価格があり、一物一価の原則は働いていない。これは、やはり価格が人為的に規制されているという証拠でしょう。

 私はかねてから消費者が商品に求める価値、すなわち価格というものは、店頭で決まるべきだと主張してきた。

 カラーテレビを例にとれば、メーカーのほうで原価がいくらかかったとか、いくらで売りたいとかいうことは意味がないのです。消費者としては、8万5000円であればカラーテレビを買いたいと思っている。それならば8万5000円で売るように研究しなければいけない。

 それには消費者の需要を発見して、それに応じて商品化していくというシステムを持たねばならぬ。メーカーが18万5000円とか16万5000円などとカラーテレビの値段を勝手に決めているのはおかしいと思うのです。

 カラーテレビは、8万5000円になれば爆発的に売れるはずだ。それを工夫すべきです。

 米国でも、10年ほど前まではこうした管理価格が実施されていた。しかし、GEがその撤廃に踏み切ってから、今では小売り屋が自由に値段を決めています。