今年4月、花王の澤田道隆社長は、ESG(環境・社会・ガバナンス)戦略を経営の柱に据えた。ただ、企業の社会貢献はコスト要素と捉えられがちだ。ESGはビジネスとして成り立つのか。澤田社長に狙いを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 相馬留美)
ESGをビジネスとして
持続可能な仕組みにする
――昨年11月、技術革新として人工皮膚技術「Fine Fiber(ファイン ファイバー)」など五つの最新技術を発表しました。その際に、オープンイノベーションの場をつくりたいという意図を示しています。
会社にイノベーションを起こさないといけないと考えたときに、今忘れてはいけないのはESG(環境・社会・ガバナンス)の観点です。
2019年4月に、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を策定し、事業戦略にESGの視点を導入して、アクションを起こしていくことにしました。そのアクションの内容は今年の秋ごろに発表したい。当然、昨年発表した五つのイノベーションテーマとリンクしています。
――ESGと技術革新が関係しているということですか。
技術革新には表と裏があります。例えばプラスチックはケミカルの技術として、とても素晴らしいものです。ただ、いいところばかりを見ていると、悪いことが時間差で起こる。プラスチックごみ問題がそうですね。
今まではいいところ、つまり表ばかりがクローズアップされていましたが、本来は裏のことも考えていかないといけない。だから、ESGと技術革新はつながっているというわけです。
発表した新技術は、パーム(ヤシ)の実の搾りかすから作られた界面活性剤「バイオIOS」、プラスチック使用量を7割削減する包装容器、傷の治療に生かせる「ファインファイバー技術」(極細繊維を肌に直接吹き付けることで積層型極薄膜を肌表面に作る技術)……。社会的課題を解決する手段を、ESGとリンクさせながら進めていきます。
こうした自分たちが作り上げた特許を、どこかでオープンにして、社会全体で使うところまでやろうとしています。もちろん、使用料を取るなどの方法で、ビジネスとしてやっていく。社会貢献としてやっていくと仕組みが回っていかない。企業ですから、社会の役に立って、結果として利益が出て、その利益を還元していかないといけない。
――商用化できるものも出てきていますか。
すでに発表している新技術「エアインフィルムボトル」(薄型のプラスチックフィルムと空気で形作られたボトル)は、できれば来年のうちに欧米で展開を始め、その3年後には特許をオープンにしていきたい。技術を使いこなせるノウハウを蓄積してからでないと、広めていけないので。