日本のものづくりが転落していく中、医療の世界は逆転の舞台となるのか。ドラマ「ブラックペアン」のストーリーさながらに「国産第1号」の手術支援ロボットが2019年度中をめどにやって来る。国産第1号を手掛けるのは、産業ロボットで50年の経験を持つ川崎重工業と検体検査機器大手のシスメックスが2013年に設立した合弁会社、メディカロイド。メディカロイドの橋本康彦社長(川崎重工業取締役常務執行役員)は、医療ロボットは日本の製造業こそ「やるべきもの」であり、強力なライバルがいる中での参入だが勝算はあると語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
命に関わる医療ロボットは
日本こそやるべき
――日本の製造業は自らの技術を極めてきた結果、イノベーションのジレンマ(既存技術で成功した大手が改良に目を奪われ、破壊的なイノベーションに立ち遅れること)に陥り、かつてのiPhoneのような「破壊的イノベーション」(既存品より低性能でも、使い勝手など新しい価値基準によって顧客からの支持を得る革新)を前に右往左往しました。日本のものづくりは今から医療の世界で勝負できるのでしょうか。
産業ロボットは、まだ世界の56%が日本のものです。圧倒的に日本が強い。産業ロボットは電子、ソフトウエア、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)の技術にプラスして、サービスがある。ロボットを使った生産ラインがちょっとでも止まったら、すぐに電話がかかってくるわけで、たとえ正月だろうとサービスサポートができる体制があって、初めて成り立つ。開発する技術者だけが優秀では駄目。サービスをする人たち、ものづくりの人たちのモラルが非常に高くないといけない。
これこそね、日本に向いた産業。物を作って不良品があればパッと交換すればいいようなものは、頭の良い人がいてお金があればできるけど、細かな失敗が許されないような産業は日本が最も得意だし、また得意としなければならない。そういう意味で医療系、中でも医療ロボットは、日本こそやるべきものです。
――向いているし、できると。
向いているし、できる。量産効率だけの話ではなくて、一個一個の部品が人の命に関わっていくかもしれないものづくりとサービス。設計者から営業まで、みんながそういう思いを共有できる体制は、日本でもだんだん難しくなってきているけれども、それでもやはり日本人のメンタルの中に脈々と受け継がれている。
――米インテュイティブサージカルの「ダヴィンチ」がほぼ独占してきた手術支援ロボットの市場に「国産第1号」として挑みます。「ダヴィンチの欠点はダヴィンチが一番よく知っている。ダヴィンチは次に相当いいものが出てくる」ともいわれ、同じく参入を狙う、米グーグルと米ジョンソン・エンド・ジョンソンが設立した米バーブ・サージカルが開発中のロボットに触れた医者は「これはすごい。使いやすい」と驚いていました。このように強力なライバルたちがロボティクスにAIやIoTなどの技術を加えて繰り広げるこの戦いに挑む中で、勝算はありますか。
基本的にはオープンプラットフォーム。川崎重工業とシスメックスの2社だけではなくて、外科デバイス世界大手の独カールストルツと業務提携したり、実はいろんなパートナーがいるんですよ。でもメインのロボット技術はうち。私は100機種以上のロボットを開発してきて、音を聞けばどんな減速機を使っているか分かるし、動きを見れば制御方式も大体分かる。医療の世界ではインテュイティブを追い掛ける立場ですが、ロボットではプロフェッショナルです。