日本の大企業の人事管理は、現在、形式的には職務等級制度にかなり移行しているものの、ほとんどの場合、いまだに一括採用で、新卒時にどの部署に配属されるのかわからず、ローテーションも維持しており、従来の年次人事管理的な運用を継続している。その分野の知識やスキルが全くない人が部長になるといったことも普通に行われるなど、運用手法は昔のままだ。例外的に、ITや AI 関連の人、特殊なキャリアを持っている「ハイレベル人材」にのみ、特別に職務等級的な処遇をしているという段階である。
したがって、従来通りの運用をしている会社にいる特別に優秀な人(AIなど特定領域の技術者ではない)は、職務等級で高い評価を受ける人と能力が遜色ない場合も、年次管理による遅い昇格を甘受しなくてはならない。一方で、職務等級的な処遇が適合する優秀な技術者は、デジタル社会の進展とともにどんどん増加していく。外国企業出身の優秀な人や現地法人の幹部は、当然こちらの処遇を志向している。日本人であっても高い給与を払うために、わざわざその会社の米国法人の社員として採用し、日本の本社に出向する形をとっている者もいる。
デジタル化、グローバル化の時代にあっては、形式的ではなく実質的に職務ベースの管理体制に変えたほうが好都合なことが多い。ただ、もしそれを実施してしまうと、同期意識の崩壊という大問題が起きる。ジョブごとに不定期に採用するようになると一斉の新人研修は実施しにくくなるし、待遇も一人一人違うから仲間意識も育ちにくい。年次管理をもとに、競争と協調と連帯をはぐくんできた日本企業の組織力に深刻な影響が出る。
組織の運営の優劣だけを見ると過去の日本企業の同期×年次管理システムは抜群に優れていた。しかしながら、デジタル化、グローバル化の時代にあっては、その優秀さこそが阻害要因になりうる。もちろん、ローカルのノンデジタル企業は違うともいえるが、全体のシステム変更の影響を免れる企業は普通に考えられているよりもずっと少ないだろう。
「同期」について幸せそうに語る中高年社員たちは、やがて絶滅していくのだ。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山進、構成/ライター 奥田由意)