世界的な金融混乱・信用収縮、景気減速リスクから、世界の投資家は脇を固めた防御的な運用に傾斜している。いわゆる「質への逃避」であり、株式から安全資産である債券・現金へのシフトが起こっている。一方、商品市場に目を転じると、「守り一辺倒」では我慢できないヘッジファンドによって大投機相場が演じられ、WTI原油先物価格は一時1バレル=110ドルを突破した。

 原油価格は、中東の戦乱、産油国の治安といった地政学的リスク・政治情勢や、OPECの生産動向、需要の源泉となる世界経済の動向、そして原油・ガソリン等の在庫統計をベースとして形成されてきた。しかし、直近の価格動向は、「ドル安=資源買い」という非常に単純化されたロジックで語られることが多い。これまでの原油市場を支配してきた「定理・法則」から逸脱した動きであることには注意を要する。

 2008年3月18日、米エネルギー省が発表した週間在庫統計では、原油在庫は3億1180万バレル、ガソリン在庫は2億3250万バレルであった(次ページのグラフ参照)。原油在庫は1995年以来の在庫平均である3億1050万バレルを上回っており、ガソリン在庫に至っては、じつに93年3月以来の高水準である。それにもかかわらず、WTI原油先物は100ドル超となり、米ガソリン価格(小売価格平均、3月17日時点)は、1米ガロン=3.332ドルで、2007年1月29日時点の2.213ドルからは約5割の急騰である。これは、どう見ても異常な価格形成である。しかも、米国が事実上リセッション入りとなり、消費量は明白に下落に転じている。

 BRICsの高成長といった世界的な需要拡大要因は否定できないが、足元の在庫動向を無視した歪な相場形成は、まるで日本の仕手株と同様である。つまり、投機マネーによる「買うから上がる・上がるから買う」の問答無用相場が展開されている。この調子では、原油価格は120ドル超もありうるが、いったん投機筋が利食いに回れば、1日で10ドル安といった変動が起きることになろう。