了善寺(東京) 投稿者:あわてるパイポ @kyuketsutei  [2019年8月25日] 

不惑を過ぎて、老いを感じる瞬間

 今回は東京都港区の昔風に言うと芝金杉町にある浄土真宗のお寺、了善寺の掲示板です。

 厚生労働省「簡易生命表」によると、2018年の日本人の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳で、男女とも過去最高を更新しています。

 多くの人々が、人生の折り返し地点である40歳を過ぎたあたりから、本格的な「老いるショック」に見舞われるのではないでしょうか?

 私自身は生まれる2年前に起きた「オイルショック」を体験していませんが、この「老いるショック」を実感するゾーンに確実に入ってきました。

 仏教では生・老・病・死の苦しみを「四苦(しく)」と呼び、それらを避けられない苦しみとしています。どんな人でも老いることによって体力や気力が衰え、若い頃には当たり前にできたことができなくなり、さまざまなことが思い通りにいかなくなってきます。嫌なことですが、生きている限り決して避けて通ることはできません。

 釈徹宗師は、自著『仏教ではこう考える』(学研プラス)の中で、この老いの苦しみへの対策の1つとして「諦めること(もしくは、引き受けること)」を挙げています。

 「諦める」というと、マイナスなイメージで捉えられがちですが、仏教的には決してそうではありません。むしろ「真理を明らかに観ずる」という意味で、ポジティブな言葉になります。「どんな人でも老いの現象を避けることができない」という真理を明らかに観て、それを引き受ける。これが仏教的な姿勢だと言えるでしょう。

 「アンチエイジング」という言葉がもてはやされ、老いの現象からできる限り逃れようとする風潮がありますね。もちろん老いの先には死がありますので、老いを恐れることは死を恐れることという意味で当然のことかもしれません。

 しかし、世の中で若くいることばかりがもてはやされるというのも問題ではないでしょうか。まん延しているアンチエイジングの考え方が、老いに直面した際の苦しみを増加させる一因になっているような気がします。

 以前、NHKの『最後の講義』という番組の中で、みうらじゅんさんは自分自身の老いを感じることに遭遇した瞬間に、昔放送されていたクイズ番組「タイムショック」をまねする感じで、明るく「老いるショック!」と言うようにしているとおっしゃっていました。これは自分自身の老化を前向きな姿勢でしっかり引き受けていく態度であり、仏教的な姿勢とも呼べるでしょう。

 先ほど挙げた釈徹宗師の著作の中では、アンチエイジングだけでなく、エイジングの物語にも耳を傾ける重要性を指摘、小津安二郎監督の名作『東京物語』を見るように勧めておられました。

 この映画の中で白髪の老父を演じていた笠智衆さんは、戦死した次男の妻が暮らす東京を訪れます。全身から漂う哀愁が実に素晴らしかったのですが、このとき実は49歳だったことをのちに知り、大変驚いたことをいまでも覚えています。ちなみに現在49歳の芸能人というと、ミュージシャンの西川貴教さんやお笑いタレントの岡村隆史さんが該当するそうです。

 私自身、このときの笠智衆さんと同じ40代であることが信じられずにいます。

 もし自分が映画の中の笠智衆さんだったら、いったいどのような老人を演じようとするのか、と想像することが大切だと思います。そのイメージこそがまさに自分自身が抱く老人像に他ならないからです。

 アンチエイジングがもてはやされる時代の中に身を置いていると、そのような想像をすること自体が忌み嫌われます。しかし、老いから逃げるのではなく、自分自身の老いた姿を想像してみる。この行為が老いの苦しみを和らげ、老いを受け入れることにつながるのではないでしょうか。

「輝け!お寺の掲示板大賞2019」募集を締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。

なお、当連載をまとめた書籍『お寺の掲示板』が9月26日に発売され、さっそく増刷となりました。お手に取ってご覧いただければ幸いです。
 

(解説/浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭)