日本が陥る「研究危機」、ベンチャー育成の近道はサイエンスの追求Photo by Yoko Akiyoshi

大学関連のベンチャーキャピタル(VC)ファンドが増えてきた。政府は米スタンフォード大学がシリコンバレーに及ぼす影響のように、新しい企業と産業を大学が生むことを期待している。その流れに警告を発しているのが、東京大学関連のVCファンド、東京大学エッジキャピタル(略称:UTEC)の郷治友孝社長だ。これまでに投資先10社を株式上場、11社をM&A(合併・吸収)などでエグジットし、大学関連ファンドとしては頭一つ抜けているUTEC。そのキーパーソンは、日本の大学発ベンチャーとビジネス界を強く憂える「憂国のキャピタリスト」でもあった。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

――UTECは投資ファンドではありますが、東京大学の名を冠している以上、「もうかるか」だけが投資基準ではないと思います。どういう基準がありますか。

 投資基準には三つの軸があります。まずサイエンスとテクノロジーが強いか。次に世界が市場となるような人類的、根本的な課題の解決に挑戦しているか。最後は経営チームを組織できるか。チームが最初からあるかどうかではなくて、僕らが関わることで立ち上げられるかです。

 世の中によくあるけれど間違っていると思うのは、強いサイエンスやテクノロジーを持っている研究者に経営までさせてしまうこと。研究者に経営をさせる方向の大学発ベンチャーって、日本には結構多いのですが、基本的に成功しません。経営の才能って、研究とは別のものですから。

――大学発ベンチャーと一口に言うけれど、そこは大きく違う。

 むしろ研究者は、その分野で世界的権威になれるレベルの研究に励んだ方が、ベンチャー企業のリソースとして価値がある。優れた研究者はどんどん研究を進めるのが、日本経済にとってもいいことなのです。

 それなのに国の研究予算が削られているが故に、研究以外でお金を稼がなきゃいけない必要に迫られる。そして研究者が経営者となってベンチャーを立ち上げて、そこに投資家のお金を募る。これはまったく筋違いで、僕が強い危機感を持っているところです。