錦織弘信、沖谷宣保東芝執行役専務、東芝デジタルソリューションズ 取締役社長 錦織弘信(写真左)
東芝デジタル&コンサルティング 取締役社長 沖谷宜保(写真右) Photo by Hideyuki Watanabe

東芝が、出遅れていたデジタルソリューション事業で巻き返しを図っている。提携した三井物産の海外の出資先でソリューションの実績をつくり、それを逆輸入する戦略だ。事業拡大の課題などをキーパーソンの2人に聞いた。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

ファクトリーIoTの受注が10社に急増した理由

――東芝のデジタルソリューション事業は競合他社に比べて遅れているように見えます。現状認識を教えてください。

錦織 進んでいないように見えるという指摘はもっともです。お客様との事例の進展をあまりオープンにしてきませんでしたから。でも、水面下でやってきたことが、大きく動き始めています。

 第一の成果は、三井物産との合弁会社、東芝デジタル&コンサルティング(株主構成:東芝デジタルソリューションズ50%、東芝30%、三井物産20%)が3つの案件(後述する英国鉄道の運行計画の作成、スペイン自動車部品大手の検品作業など)を受注したこと。第二の成果はデンソーさんなどと進めてきた工場のIoT(モノのインターネット)が急拡大していることです。「ファクトリーIoT」だけで10社(自動車業界5社、産業機械業界3社、電子部品業界2社)と契約しました。自動車部品のメガサプライヤーであるデンソーさん、切削工具やロボットの不二越さんなど各業界の有力企業がそろっています。

――しかし、「世界有数のCPS(サイバーフィジカルシステム=実世界で収集したデータをサイバーの世界で解析し、改善策を作成。それを実世界にフィードバックすることで付加価値を創出する取り組み)テクノロジー企業を目指す」目標を掲げているのに、中期経営計画にCPSによる売上高の成長が織り込まれていないことには物足りなさを感じます。

錦織 中期経営計画「東芝Nextプラン」は2つに分かれています。19年度からの5年間は、(コスト削減などで)収益性を高めていく第一フェーズです。CPSはそう簡単には事業化できません。確かに、現中計にはCPSによる売上高はほとんど入ってないのが現状です。

 ただし、第一フェーズでもCPSの事業化はやっています。「30年に世界有数のCPSテクノロジー企業を目指す」というのは第二フェーズです。今年末くらいまでに(CPSの事業の業績への貢献度の)数字をアップデートします。

――現在、目標としている数字はありますか。

錦織 東芝デジタル&コンサルティングは23年度までに累計売上高150億円を目指しています。東芝全体の数字は言えませんが、当然もっと大規模になります。

――利益率はどうなりそうですか。現状は、東芝の中で、従来のシステム構築事業を含む「デジタルソリューション」セグメント(=東芝デジタルソリューションズ)の利益率(19年4~9月期で営業利益率4.1%)はその他のセグメントに対して突出しているわけではありません。東芝グループを利益でけん引できるのでしょうか。

錦織 当然そのつもりでやっています。この事業の肝は、売上高ではなくて利益です。デジタルソリューション事業の限界利益(売上高を1単位増やすことで増える利益)は通常のシステム構築事業の3倍でして、二桁の営業利益率を実現しています。東芝の「デジタルソリューション」セグメントの23年の営業利益率を10.7%にする目標がありますが、それを実現する起爆剤にしたいと考えています。

――日立製作所は、デジタルソリューション事業ですでに売上高1兆円を超えており、1兆6000億円を目指すと言っています。日立グループと比較対象となる数値目標は年度末ごろに出てくるということですか。

錦織 そうですね。ただ、デジタルソリューションの定義は、日立さんとは異なるでしょう。

沖谷 日立さんはデジタルソリューション事業の売上高に従来のシステム構築を含めています。

錦織 東芝はデジタルソリューションの定義をはっきりしていきます。

――デジタルソリューション事業の成長ぶりがはっきり見えるような(既存事業とは分類した)指標で開示していくということですか。

錦織 そういうことです。