「出口史観」が存在しない理由
出口 『岩波講座日本歴史』を書いている学者でも、ときどきおかしな人がいないわけではありませんが、8~9割はまともな学者だと考えていいと思います。
僕も日本史の本を何冊か書いているので、ときどき、「出口史観ですよね」といわれるのですが、「そういわれるのは恥です」と答えているのです。
僕は素人で、とても「史観」などという立派なものを生み出す能力はありません。
僕が書いているのは、わかりやすく面白く書こうとは努力していますが、学者の最新の研究の中で相対的に腹落ちして正しいと思うものを並べているだけです。
元々、歴史はひとつなので、「出口史観」などというものはどこにもありません。
僕は、決して文章がうまくありませんが、司馬遼太郎さんのように文章が上手な人が書いてしまうと、それを読んだ読者が「本当の歴史」だと錯覚してしまう。
「坂本龍馬という立派な人がいたからこそ、明治維新が起こったのですよね?」
と、今のまともな歴史学者に聞いたら、明治維新に与えた坂本龍馬の影響は1%もないと答えるかもしれません。
高知県の人は怒らないでくださいね。これは、学問の話をしているので。
でも、みなさん、明治維新に与えた坂本龍馬の影響は1割ぐらいはあると思っていませんでしたか?
――はい、思っていました。
出口 でも丁寧に文献を見ていくと、明治政府の重臣はひとりも龍馬の貢献についてコメントを残していないし、龍馬は何をした人かよくわからない。
あの有名な「船中八策」という言葉ですら、初めて出てくるのは、確か明治後期以降になってからですよね。
――はい、ありがとうございます。