なぜ、世界では
「歴史とは何か」を
初等教育でしっかり教えるのか？

世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ＝ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか？
脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、発売後たちまち第7刷を突破。「日経新聞」「日経MJ」「朝日新聞」「読売新聞」のほか、本日、「北海道新聞」にも掲載。“HONZ”『致知』『週刊朝日』『サンデー毎日』「読売新聞」でも書評が掲載された。
過日、立命館アジア太平洋大学（APU）創立20周年を記念して、東京駅直結の立命館東京キャンパス（東京駅直結・サピアタワー）に約100名が集結。「歴史とは何か？」と題した出口氏講演会が開催された。今回から、その後開催され盛り上がった「質疑応答」の模様を特別公開する。

「歴史とは何か？」を教える意味

出口　はい、それではここからは質問をどうぞ。

――出口さんのお話がとても面白かったです。ただ初等教育の段階で、どのように歴史を学んだらいいのでしょう？　仏教が「技術体系」であるとか、日本が「傭兵国家である」というのは、かつて学んだことがあるので腑に落ち、面白いと思えるのですが、知識のない子どもにいきなり「傭兵」といってもわかりませんよね。「技術体系」もしかりです。
　最初に歴史をどう学んだらいいか。小学生に正しい歴史の学び方を教えるにはどうしたらいいでしょうか。

出口　これは、世界の子どもたちが、どのように歴史を教えられているかを学んだらすごく参考になると思います。
　特にヨーロッパでは、「通史」に興味のある人はたくさんいます。だからむしろ「歴史とは何か」を教えています。
　12歳（小6）の小学生の実話です。
　ロンドンに住んでいる僕の友人が、仕事が早く終わって帰ったので、娘さんにポイントを稼ごうと思い、「お父さんが宿題を見てあげるよ」といって娘さんの部屋に入っていった。宿題は歴史だったそうです。

　中世のイングランドのある村について3つの記録があった。
　1つは、村の領主の番頭が書いたもの。
　もう1つは、牧師のお嬢さんの日記。
　最後に、19世紀にオックスフォード大学の教授が書いた論文がある。
　この3つをどう読んだらいいか

　というものでした。

　これが小6の宿題です。みなさん解けますか？
　お父さんはひっくり返った。

「それでお嬢さんにどう答えるつもりだったの？」
と聞いた。

　するとお嬢さんいわく、
「牧師のお嬢さんが書いた日記にウソはないと思う。
　でも、当時の彼女は村の外に出たこともなかっただろうから、全体が見えていたかどうかはあやしい。領主の番頭が書いたものは、年貢をもっととってやろうとか、お殿様にゴマをすろうと思ったりしながら書いていたかもしれない。
　みんなは、大学教授が書いたものが一番信頼できると答えると思うけれど、教授だっていい論文を書いてポイントを上げたいから、自分に都合のいいデータばかり集めているかもしれない。いくらオックスフォード大学の教授といったって、自分できちんと裏をとって読まないと、正しいかどうかはわからないよね」と。

　僕の友人は、
「あえてインターナショナルスクールにやらなくてよかった。
　現地校に入れてよかった」
と話していました。

　子どもを育てる際のヒントになりますね。

――はい、とても。ありがとうございます。

出口　よろしければ、『哲学と宗教全史』の今までのバックナンバーもご覧ください。