レジェンドインタビュー不朽・大塚グループ総帥 大塚正士

 広大な「入浜式塩田」で有名な徳島県鳴門市はかつて、製塩業と共にその副産物である“にがり”をもとにした、医薬品原料となる炭酸マグネシウムなど化学品の生産も地場産業だった。1921年、大塚武三郎が創業した大塚製薬工場もそうした町工場の一つである。

 終戦時には社員17人だった町工場を飛躍的に大きくしたのは、武三郎の長男、大塚正士(1916年10月24日~2000年4月17日)である。47年に社長として後を継ぐと、医薬品の原料だけでなく医薬品そのものの製造にも進出。その後、食品事業にも手を広げる。

 大塚は持ち前の発想力で、オロナイン軟膏、オロナミンC、ゴキブリホイホイ、ボンカレー、ポカリスエット、カロリーメイト……数々のヒット商品を「医・食・住」の領域で生み出していった。

 今回紹介する記事は、「週刊ダイヤモンド」91年11月2日号に掲載された大塚のインタビューだ。当時、大塚は大塚グループ総帥として、大塚製薬の相談役に就いていた。記事では、17人の零細企業をグループ従業員1万5900人、売上高6500億円(91年当時)に育て上げた、その経営者人生を振り返っている。

 というのも、大塚はこの年の4月に『わが実証人生』と題した著書を出版したばかり。上下巻2冊セット、総計2070ページという大著である。そして、なんと定価が10万円。そんな桁外れの本が、大塚によると初版の6000部は全て売れて、5000部増刷したという。しかも、一切値引きなしで、取引先も社員も政治家も、全て定価で買っているのだという。

「10万で買うた人は、この中から1000万、1億もうけてもらわないかん。それは読者次第です」と、大塚は自信満々に語っている。

 筆者も、国立国会図書館に出向き、読んでみた。図書館職員が地下の書庫から運んできてくれた同書は、化粧箱入りで重量6kg! 職員が「台車を用意しましょうか」と声を掛けてくれたほどのボリュームだ。

 確かに、中身はすこぶる面白い。独自の経営論やヒット商品の開発裏話、旅行記に政治談義、酒と女に関する赤裸々なエピソード……全334話はどれもユーモアに溢れ、飽きさせない。毎日午前4時に起き、6時までの2時間で1話ずつ、自ら書き綴って、執筆には丸々2年かけたという。

「人生は実行です。彫刻『考える人』であなたは一生を終えるつもりですか?」と、同書の中で大塚は語り掛ける。正しい判断ができても実行力が伴わなければ意味がないことを、まさに「実証」的に教えてくれる本だった。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)

ただでもらった本は読まん
社員にも定価10万円で販売

レジェンドインタビュー1991年11月2日号誌面1991年11月2日号より

──執筆から編集、広告コピーまで、全て自分で?

 はい。玄人の手は入らずですよ。

──重量といい、人間存在の大きさを感じさせますね。

 楽しみの本ではなくて、私が実証した語録を並べて、もうけるための本ですからね。

──生身の経営者のビヘイビアが分かって興味深い。

 ストリップですから、全裸ですよ、ワッハハハ(笑)。彼女のことまで書いてあります。

──334話は具体的ですね。

 頭の中が図書館のようになっておりまして、成功したことや失敗したことなど、小さなことでもなかなか忘れられない。真剣勝負ですからね。

──10万円の本が、すでに6000部売れたそうですね。

 ええ。あと5000部増刷しますから1万1000部になりますね。最初は5000部売るつもりだったんですが、売れ行きを見てさらに増刷して1万1000部、売り上げ11億円の予定です。政治家にも、お世話になった社長にも1冊もあげませんからね。全部買うてくれと。

 とにかく、ただでもらった本は読まんと、私はこういう意見です。金を出してこそ読むんだと。だから欲しい人だけに買うてもろて、役立ったらそれでええ。せっかくの本が書棚に眠っているなら、つまらんですから。1冊もあげんので、逆につらいところがある。

──社員の人にも?

 ええ、定価で販売してます。割引も全然ありません。社内に補塡しとったらいかん(笑)。その代わり会社に備え付けのは置いてありますから、買わなくても読めます。グループに入れて社内は750冊ぐらい出ました。残りは中小企業の社長さんが多いと思う。経営者で大体40歳を目標にして、60歳ぐらいまでを対象に書いたんです。

──若い人には分からない?

 要らんですよ。欲望に燃え責任感に燃えるのは、やっぱり40歳からですね。40で初めて男は一人前になる。人間は、欲望という名のエンジンで走るのです。欲望は過ぎると破壊の元凶になるが。

 やっぱり40歳で人生とかの経営の判断ができるようになる。それまでにいろいろ間違ってますから。大学を出て強い欲望のままに、失敗をして経験を重ねていくのです。いやいや、人生というのは欲望と辛抱だ。二つのボウの間にある、アッハハハ。