2020年の米景気と株価に堅調を保つ条件がそろいつつある。3回の利下げに続いて、米トランプ政権が大統領選挙に向けて米中摩擦緩和を演出すれば、ドル円は105~110円から上値を試す場面もあり得る。

 ただし、上げ相場の持続は想定し難い。完全雇用に至った米景気、そして株価の伸び代は限られよう。21年には下方リスクが優勢になると判断する。20年中も、米中交渉失敗、米景況感の不調、米大統領選挙の混沌、中国減速などのリスク要因が折々に市場を神経質にしよう。順当に景気堅調でも、利上げ観測が再浮上すれば、株価の頭をたたきかねない。

 20年に相場が底堅さを保っても、腰を入れた投資は推奨し難い。やがて米景気が陰ると、円ベース投資は円高とともに、国内株式も海外資産もダメージを被りやすい。これを逆手に取る王道は、景気終盤のうちに利益確定売りを進めて身軽になり、来る円高・株安後の買い場に備えることだ。

 また、この機会に、「リスクオフで円高」のかく乱から離れた、ドルベース投資も一考の価値がある。長期では、米経済、ドル資産、ドル円の優位性が期待される。

 中期サイクルでは米景況悪化に伴う金融緩和局面に円高で日本株が圧迫され続ける一方、米株式はいち早く上昇に転じやすい。ドルからの世界市場の視界は分かりやすい。最近7年のドル高局面に割安化した欧州や一部新興国はドル安とともに浮上しやすくなる。

 欧州は経済実態を見る限り魅力を欠く。けん引役のドイツが沈んでいる(上図参照)。ドイツ経済の強さの背景には割安なユーロがあった。長期的には物価が高い国ほど通貨が安くなる。単一通貨ユーロは、物価が低いドイツには割安、物価が高い南欧諸国には割高の度を強めてきた(中図参照)。ユーロ安の恩恵を受けながら、ドイツ経済は陰り、輸出強国の箔が落ち、ITやAI(人工知能)など次世代分野に優位性がないことも再認識されつつある。

 ECB(欧州中央銀行)の超金融緩和でも信用は回復せず、「日本化」の危惧もある。ユーロは対ドル相場が米独金利差から乖離するなど不安定化し(下図参照)、国際分散投資の要としての信認も問われる。

 それでも、欧州が浮上するとみる理由は何か。第一に、上述の悲観の分、欧州は過小評価されているだろう。第二に、二大通貨としてドルが下がればユーロが上がるシーソー関係がある。円から挑む醍醐味、ドルから臨む視界良好、それぞれ相場の生かし方がある。

(楽天証券経済研究所グローバルマクロ・アドバイザー、田中泰輔リサーチ代表 田中泰輔)