実験し続けることは、常に正しい
そういう意味で、僕にとって最高の「実験場」は自分の会社〈アキュセラ〉なのかもしれない。スタッフ80名のベンチャー企業は、大企業と違い「実験結果」がすぐに出てくる。A社から技術移転を受けたらどうだろう。B氏をあのポジションに置いたらどうなるだろう。というふうに「実験」をしてみると、あっというまにフィードバックが返ってくるから、実験好きの僕としては毎日ワクワクしている。
また会社が成長すると、それに合わせて組織のありかたを変えていくという「実験」も新たに加わる。ベンチャー企業というのはどこも、草創期はクリエイティブな人ばかりが集まっている。とにかく新しいことをどんどんやりたいというリスクテイカー一辺倒であるわけだ。例にもれず僕の会社もそうだった。ところが、設立から数年が経ち規模が大きくなるにつれ、ルーティーンワーク的な単純業務を安定してやってくれるタイプが必要となる。そのバランスをどの時点でどう取るか。これも難しいがやりがいのある「実験」だ。
ちなみに〈アキュセラ〉の社訓の筆頭にあるのは「Adaptive(適応する)」。昨日立証された仮説は明日にはもう正しくなくなっているかもしれない。時々刻々と変化する環境に対して絶えず超ハイ・スピードで実験を繰り返し、その時点で最適なこたえに適応していく。それが社訓の意味するところだ。何が正しいかは言えない。でも、実験し続けることは正しい、とは断言できる。
そんなわけで、僕にとって「実験」は常に人生の一部だった。
とはいえ、世の中では長らく「実験(Experimentation)」よりも「改善(Improvement)」が主流だった。拡大・成長を続ける経済のなかで、各プレーヤーが今ある組織をどう改善していくか。それが至上命題だった時代が何十年も続いていた。
でも、今は「実験」の時代だと考えている。
欧米でも特に2008年のリーマンショック以降は、「Adaptive」であることが求められるようになっている。数年先を予測し、それに合わせて現状を「改善」するという方法では到底対応できないほど世界は複雑化しているので、いっそのこと、物事が起こった時点からできるだけ俊敏に事態に適応するようにしよう。そういう考えかたが主流になりつつあるわけだ。