ブラック・スワンは、金融だけの話ではない

 こうして見てくると、巷でよく言われているように「リーマン・ショック = ブラック・スワン」だと単純に捉えてはいけないことがわかるだろう。リーマン・ショックはブラック・スワン的ではあるが、ブラック・スワンは必ずしもリーマン・ショックだけではない。

 ブラック・スワンはリーマン・ショックで有名になったが、ブラック・スワン自体はリーマン・ショックの存在いかんにかかわらず、どこにでも存在する可能性がある。事実、『ブラック・スワン』はリーマン・ショック前に書かれたもので、リーマン・ショックを分析したものではない。

 また、ブラック・スワンという言葉は、黒い白鳥が見つかるまでは黒い白鳥が存在することすら想像できない、という不可知性を伴うものである。不確実性と複雑性を兼ね備えた事象をブラック・スワンに喩えるタレブのワーディングは、論理的にも妥当だと感じる。

「ブラック・スワン」から「反脆弱性」、そして「身銭を切れ」へ

 タレブの代表作は『ブラック・スワン(The Black Swan)』だが、そこから考察は広がり、『反脆弱性(Antifragile)』、『身銭を切れ(Skin in the Game)』へとつながる。

 ブラック・スワンは不可知性を伴いながらも存在する。では、ブラック・スワンへの対処をどのようにすればよいのか。それを論じているのが『反脆弱性』である

 タレブ流の処世術の集大成であるが、次回はそれを概観していこう。