私たちが不確実性に手を焼くのはなぜか

 多くの場合、「リスク」と言われる場合はボラティリティのことをさしている。ボラティリティであれば、現在の人類はその管理に関してかなり自信を持っていいレベルで知見がたまっている。工学、金融工学において、それを扱うメソドロジーは発達しており、どのようなシナリオになったとしても数学的に比較的扱いやすく対処がしやすい。このことは、一般的には将来予測のしやすさに直結する。

 だが、「リスク」には不確実性が混じっている場合がある。不確実性は原理的に確率を推し量ることは難しく、数理的な分析が比較的難しいものである。それゆえ、不確実性が混じっていることに気づくことができないと、ボラティリティと同様に計算できると安易に考えてしまう。結果、その分析は役に立たないどころか、甘い分析をしてしまったばかりに手痛いしっぺ返しを受けることにもなりかねないのだ。

 不確実性の厄介さとは、計算のしにくさと、気づきにくさにある。大まかにではあるが、まずはそのように考えてもらえればイメージしやすいだろう。

ブラック・スワンを判定するための2つの軸

 タレブは『ブラック・スワン』において、確率分野でのボラティリティと不確実性の区別に加えて、ペイオフの複雑さを考察に加えている。つまり、ペイオフがシンプルか複雑か、である。

 ペイオフとは「払い出し」という語義だが、広義では事象が発生した場合の影響を指している。コイントスで何か(たとえば1ドル)をかける場合は、ペイオフはシンプルだ。1ドルをもらえるかもらえないか。非常に単純であり、不意に10ドルを失うことはない。複雑なペイオフとは、事前に正確に払い出し(や影響)が容易に予測できない場合のことである。

 確率が事前にわかっているか(ボラティリティか不確実性か)と、ペイオフがシンプルか複雑か。この2つの軸でタレブは4象限を作り、不確実性+複雑なペイオフの組み合わせである「第四象限」をブラック・スワンなのだと説明する

なぜ私たちは「不確実性」に手を焼くのか?『強さと脆さ』116ページ図表2をもとに筆者作成