パナソニック 老衰危機_#02_津賀社長激白Photo:Bloomberg/gettyimages

津賀一宏・パナソニック社長の就任当初のシナリオは大きく狂った。大まかに言えば、誤算は二つある。一つ目は、集中投資を実行した自動車事業が開花しなかったこと。二つ目は権限移譲した事業部の幹部の多くが、必要な改革を断行できなかったことだ。就任8年目に入った津賀社長は、狂ったシナリオをどう修正しようとしているのか。退陣することはあり得ないのか。特集「パナソニック老衰危機」(全10回)の♯02では、津賀社長への突撃インタビューをお届けする。(ダイヤモンド編集部 新井美江子、浅島亮子)

パナソニック役員が明かす
津賀社長が辞められない理由

 「津賀さんが、何でこんなに長く社長をやっているか分かります? 就任6年目までの社長の実績は、前の社長が撒いた種の『刈り取り』をして上がっているにすぎない。だから、自分の本当の実績を見るためにも、長くやりませんかって話になったんです」

 続投すれば、今年で就任9年目――。そんな津賀一宏・パナソニック社長が長期政権に至った理由を、パナソニックの指名・報酬諮問委員会の内情をよく知るある役員はこう解説する。

 だが、津賀社長が就任当初に描いた成長シナリオには大きな狂いが生じている。

 津賀社長は、パナソニックを再び成長軌道に乗せるため、戦略投資枠1兆円を握りしめて自動車事業(米テスラ向けなどの車載電池事業と車載機器事業)に大胆に投資を傾けたが、その“賭け”に負けた。自動車事業の詳細については♯07(1月9日〈木〉配信)に譲るが、自動車事業が家電に代わる“本業”候補となる計画は画餅に終わったのだ。

 2期連続の巨額赤字から業績が復活しかけたものの、現在、再び構造改革に着手する羽目になっている(津賀社長の主な施策については下図参照)。

 パナソニックは下図のように、社内カンパニー制を取って各事業をマネジメントしているが、ここにきて、自動車以外の事業にもほころびが見え始めている。

 津賀社長は、一般消費者向けのデジタル家電を擁するAVCネットワークス(AVC)社(現アプライアンス〈AP〉社、コネクティッドソリューションズ〈CNS〉社)の社長に就いていた2011年、AVC社の人員を問答無用に整理することで社内外に名を轟かせた“改革者”だ。しかし、津賀社長のリーダーシップと冷徹さは持続したわけではない。

 家電製品や自動車製品、デバイスや電材(照明・配線器具など)といった具合に業容が広過ぎるパナソニックを、社長一人でグリップすることなど土台無理だと割り切っている節がある。だからこそ、事業部の「収支の見える化」を徹底的に進めることで「営業利益率5%」という事業の生存ルールを設定。事業部に権限を移譲して事業運営を委ねてきた。

 ところがふたを開けてみれば、「各カンパニーの上層部は、津賀さんほど厳しく将来を見通すことはなく、それぞれの構造改革に着手できなかった」(パナソニック幹部)のが実態だった。テレビや半導体など従前のお荷物事業はもとより、白物家電や車載機器などかつての高収益事業の体たらくに対処できなかったのも、カンパニーや事業部の収益管理が甘かったことに尽きる。

 津賀社長のシナリオでは、自動車事業で利益を底上げできれば、それ以外の事業は安定的に運営するだけで十分、会社全体の成長が図れるはずだった。今、心をよぎるのは、「甘い考えでやってしまったかもしれない」(津賀社長)との反省の思いだ。