結局、南海ホークスは88年、ダイエーに買収されて福岡ダイエーホークス(その後さらに身売りして福岡ソフトバンクホークス)となり、福岡に本拠地を移した。皮肉にも、引受先のダイエーは、家電の安売り戦争で松下電器を苦しめた天敵だった。

 そんな経緯のある松下電器が、93年開幕のプロサッカー「Jリーグ」にはなぜ企業スポーツ母体のガンバ大阪(現在パナソニックが70%出資)を加盟させたのか。前出の元幹部の説明は、「だって既に幸之助さんは亡くなっていたし、正幸さん(幸之助氏の孫)がサッカー好きだしね」。つまり、それまでの松下電器にあった「プロ、アマの線引き」は、創業者の松下幸之助氏(1894~1989年)の意向が大きかったようだ。

 松下電器のフィロソフィーの変遷はさておき、プロチームを巡る昔話はいずれも松下銀行と呼ばれた羽振りの良い時代の出来事だ。松下銀行の面影は今のパナソニックにはなく、多額のスポンサー費用を投入するガンバ大阪すらリストラの例外ではないはずだ。

日本製鉄、東芝、日産…
レガシー企業の止まらぬスポーツ離れ

 名門でも、常勝でも、人気があっても関係ないのか――。

 Jリーグ関係者やサポーターの間に2019年夏、激震が走った。その中にはガンバ大阪のサポーターもいたことだろう。震源地は、国内外で主要タイトルを20も獲得してきたJ1屈指の強豪クラブ、鹿島アントラーズだ。

 ルーツの「住友金属蹴球同好会」創設から70年余り。Jリーグ開幕時から加盟する鹿島アントラーズの最大株主である日本製鉄(12年に新日本製鐵と住友金属工業が合併)が19年7月、メルカリに対し、所有する大半の株(持ち株比率で61.6%)を約16億円で売却すると発表したのだ。

 日本製鉄が表向きに挙げた理由は、「メルカリの持つテクノロジーと経営ノウハウが鹿島アントラーズのさらなる経営基盤の強化につながる」。もっともな理由だが、日本製鉄の資本効率を上げることこそが本音ではないだろうか。社内で住友金属色が薄まってきていたのに加え、製鉄業界にいわゆる“鉄冷え”が来るのが見えているからだ。大胆な決断に、住友金属OBから悲鳴が上がった。

 近年のレガシー企業のスポーツからの撤退は、東芝(プロバスケットボール)、四国電力(陸上競技)、エスビー食品(同)など、枚挙にいとまがない。

 それでもプロ野球に次いで国内第2位のプロスポーツ市場規模であるJリーグからの撤退は反響が大きく、慎重にならざるを得ない“奥の手”のようだ。日本製鉄はメルカリと共に記者会見を開いて懇切丁寧に経緯を説明しており、また経営不振の日産自動車は野球、卓球、陸上と次々に企業スポーツを切ってきたが、J1の横浜F・マリノス(日産が74.6%出資)だけはいまだ手放さない。

 ガンバ大阪はJ1で18年度2位の入場料収入を誇る人気ぶりで、Jリーグ開幕時から加盟している名門クラブ。仮にパナソニックが今後、スポーツ支援から手を引くにしても、後回しになるに違いない。

 それでも鹿島アントラーズに起きたことは、ガンバ大阪にとって対岸の火事ではないのだ。