本連載のメインタイトルは「大不況に克つサバイバル経営戦略」としている。連載当初は「大不況」の枕詞も、半年程度でなくなるであろうと考えていた。ところが、消費増税により、これから「本格的な大不況」が始まろうとしている。
消費税の引き上げは個人消費を冷やし、企業の設備投資を減退させることから、個人にとっても企業にとっても、厳しい時代の到来だ。ところが皮肉にも、企業業績をウォッチングする立場からすれば、得難い時代の到来となる。消費や投資の低迷によって企業業績が崩壊する過程では、それまで気づかなかった現象に出くわすことがあるからだ。
株式投資やFX投資の世界では、凪(なぎ)の状態のときは「儲けにならない」とされる。株価や円相場が大きく変動するときこそ、大きな利を得ることができる。もちろん、大損するリスクもあるわけだが。
これから迎える「本格的な大不況」を前に、「企業業績の悪化」が、興味深い現象を生み出す例を以下で紹介しておこう。分析対象として取り上げる企業は、このところ何かと話題のシャープと、ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)である。
定量分析の世界にも
はびこる絶対的通説
その前に、今回の分析で用いる道具を紹介しておこう。次の〔図表 1〕は、管理会計や経営分析の世界では必ず説明される図表である。CVP図表という。
〔図表 1〕では、45度の傾きを持った「売上高線」が青色で描かれている。売上高がゼロであっても、企業には一定のコストが発生する。それが縦軸で「固定費:Q」として表示されている。
点Qを起点として、売上高の増大に比例してコストが増えていく。それが〔図表 1〕では黒色の「コスト直線」として描かれている。売上高線とコスト直線とが交わる点Pが、いわゆる「損益分岐点」である。
その損益分岐点Pよりも右上(黄色で染めた領域)では黒字が確保され、損益分岐点よりも左下(オレンジ色で染めた領域)では赤字に転落する。図表の中空に浮かぶ損益分岐点Pから垂線を下ろしたところで「損益分岐点売上高」を求めることができる。こうした仕組みを、CVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)という。