生活保護をめぐる多様な側面・関係する多様な人々の「リアル」を紹介する本連載では、生活保護を受給する資格があるのに受給できていない人々が多数存在する問題、つまり「漏給」の問題については充分に紹介できていない。
今回は、2012年8月1日、日本弁護士連合会(日弁連)が主催したシンポジウム『生活保護バッシングの陰で頻発する餓死・孤立死事件~2012年秋とりまとめ予定の「生活支援戦略」策定上の課題を考える~』レポートを通じて、漏給の問題、生活保護制度が必要な人々に届いていない問題について考えたい。
実は福祉の恩恵を受けていない
貧困層が多い日本
Photo by Yoshiko Miwa
2009年以前、公式には、日本には貧困問題は存在しないことになっていた。批判も多い民主党政権だが、政権交代の際のマニフェストのうち「貧困の実態調査を行い、対策を講じる」の前半、実態調査は実現した。そして厚生労働省は2011年、日本の2009年の相対貧困率(注)を発表した。「15.7%」という驚くべき数字であった。「算出の基準が適切であるかどうか」といった問題はあり、実際には貧困率はもっと高い可能性もある。
OECDが発表した2000年代半ばの統計によれば、OECDに加盟する先進国で日本以上に貧困率の高い国は、格差が拡大している米国・トルコやメキシコのように当時の経済状況が低迷していた国の3ヵ国のみである。ひとり親世帯の貧困率に限れば、54.3%。先進国の中で最悪だ。その2009年の日本の生活保護率は、2.65%。厚生労働省の発表した貧困率「15.7%」を信じるとすれば、生活保護受給世帯の4.9倍の貧困世帯が生活保護を受給していないことになる。
にもかかわらず、昨今、生活保護を含めて、社会保障を削減しようとする政治的な動きが激しい。具体的には「生活支援戦略」が自民・公明・民主の3党合意によって取りまとめられようとしている昨今である。2012年6月26日には、衆議院で「社会保障制度改革推進法案」が可決された。参議院でも可決されれば、この法案は成立してしまう。
日弁連によれば、7月に入ってから、議員らによる社会保障に関する勉強会の依頼が相次いだという。「このまま進んでよいのだろうか?」と考える議員らが、参議院・衆議院の両方に多数存在するようだ。その依頼に応じる形で、日弁連では、ホームレス問題・生活保護費より最低賃金が低い地域が存在する問題についての勉強会を開催した。8月1日の標記シンポジウムも、この流れの一環として開催され、一般来場者の他に、議員多数が参加していた。ちなみに、生活保護制度改革の最先鋒として知られる自民党の片山さつき氏は、参加していなかった。
(注)貧困率=貧困世帯数÷全世帯数。その国の全世帯の所得の中央値の50%を「貧困線」と呼び、「貧困線」以下の所得で生活している世帯を貧困世帯として計算を行う。2009年、厚生労働省によれば、日本の単身者の貧困線は112万円。ちなみにOECDによると、日本の2000年代半ばの貧困線は149万円で、ほぼ東京都の生活保護水準と同等になる。