さらに、今回の新型肺炎が世界経済にとって主要なリスクの一つである米中関係にどう影響するかも気がかりだ。原油などエネルギー資源の需要が低下するとの懸念を受けて、米国のジャンク債市場からは資金が流出し始めた。新型肺炎が世界経済に与える影響は軽視すべきではない。

感染拡大に
歯止めがかからない新型肺炎

 2月5日時点で、中国での新型肺炎の感染者数は2万人を超えた。死者はSARS(重症急性呼吸器症候群)を上回る490人に達した。感染者数、死者数ともに増加傾向にある。米国政府が中国への渡航中止を勧告するなど、中国は非常事態というべき状況を迎えた。

 習近平国家主席を筆頭とする中国共産党の指導部は、この状況に強い危機感を持っているはずだ。おそらく、指導部は、これほどまでに感染が拡大し、内外の経済、社会心理にマイナスの影響が及ぶとは想定していなかっただろう。共産党指導部が初動の不備を認め、新型肺炎の感染拡大を“有事”として扱うことで党を結束させようとしていることを見ると、習氏を中心に共産党内部にはかなりの焦りが広がっているとみられる。

 突き詰めて考えた場合、習氏らが懸念しているのは、感染の拡大によって人々の恐怖心理が高まってしまい、共産党の求心力がこれまでに増して弱まることだろう。それは、国家資本主義体制を重視する中国共産党にとって、何としても避けなければならない展開といえる。

 どういうことかといえば、人々が共産党の指導を信じなくなると、政策の効力が低下するなどし、社会情勢の不安定性が高まりかねない。そうした展開が鮮明となれば、チベットや新疆ウイグル自治区などで人々の不満や自由への渇望が高まり、共産党政権の権力の基盤が揺らぐだろう。

 経済成長が限界を迎え、景気の減速を食い止めることが難しい中で、何とかして共産党指導部は事態を収拾しなければならない。まさに、「なりふり構っていられない」のが指導部の本音だろう。春節の連休明けの上海市場では、中国人民銀行が大規模に資金を供給するなど、中国は総力をあげて新型肺炎の懸念拡大を抑えようと必死になっている。

 同時に、新型肺炎が中国の実体経済(消費や生産など)に与える影響がどの程度になるのかが見通しづらい。武漢は自動車やIT企業が集まる、“中国製造2025”の重要拠点の一つに位置づけられる。すでに、世界の自動車産業などではサプライチェーンの混乱が広がっている。中国内外の経済にはかなりのマイナス影響があると考えたほうがいいだろう。