中国で2月に入り、企業が取引契約に違反した際の免責を求める「不可抗力宣言」の動きが広がっている。新型肺炎で休業したメーカーが取引先に対し、「不測の事態で製品を供給できない」と免責を主張するのが主なパターン。政府系団体は不可抗力事態を裏付けする証明書を積極的に発行しており、国際貿易における「徳政令」の様相だ。外資企業が当事者となるケースもあり、日本企業も警戒が必要だ。特集「新型肺炎クライシス」の第8回では、その最前線の動きをレポートする。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ)
4.8億円の損害賠償請求が棒引き
乱発される「不可抗力証明書」
「この証明書が速やかに発行されなければ、相手の生産ラインを停止させた理由で、3000万元(約4.8億円)の損害賠償を求められる可能性があった」
中国商務部(部は日本の省)傘下の中国国際貿易促進委員会(中国貿促会)は2日、公式ホームページ上でこう説明した。全国初となる「不可抗力の事実についての証明書」(写真)を、浙江省湖州の自動車部品メーカーに発行したとする公式発表の一部だ。
このメーカーは、仏プジョー(PSA傘下)のアフリカの工場にステアリング関連部品を供給している。だが新型肺炎の影響で10日まで事業は休止状態に。その結果、部品供給の遅れによりプジョー側工場は2週間の生産停止に追い込まれたという。メーカーはこの証明書を基に取引先に対し、不可抗力宣言を行い、4.8億円の損害賠償を含む契約不履行に伴う請求を拒否する見通しだ。
不可抗力宣言はビジネスの現場では「フォースマジュール」と呼ばれる。中国に限らず世界的に、貿易取引で考慮されている概念だ。災害やテロなど不可抗力の事態で製品が供給できなくなった場合、ものの売り手側が契約不履行の責任を負わないよう、あらかじめ契約で定めることが多い。実際に免責されるには、不可抗力な事態を客観的に証明する材料が必要不可欠。中国貿促会が今回出している証明書がそれだ。