「マスクは友好の証」
劇的な対日感情の改善
新型肺炎の感染が拡大する中で、日中関係には新たな動きが見られた。その一つは、中国社会における対日感情の好転である。周知の通り中国ではここ数年、日本への観光客の増加に伴って対日感情は比較的好転していた。また習近平国家主席の訪日が近づくに連れ、日中関係を肯定的に捉える見方が広まっていた。習氏が2019年末のマカオ訪問時に和牛を口にするなど、そうした対日好感度を高める言動は首脳からも多く発せられていた。
新型肺炎の流行によって、日本への中国人観光客は激減した。しかし感染が拡大する中で、日本の自治体や個人などからマスクを送る支援があった。一部の国や地域が中国へのマスク支援を手控える中で行われたため、日本からの支援は中国のメディアなどで「友好の証し」として報道され、会員制交流サイト(SNS)などでも賛美の声が広がった。
日本社会ではのちに国内で感染が拡大するという危機感が薄かったがため、このような支援があったと言えるが、ともあれ予想外の効果を生み出したのだった。この結果、中国では「未曾有(みぞう)の日中関係改善」を踏まえ、テレビの抗日ドラマの放映を暫時中止する省も現れた。さらに、その後日本での感染が広がり始めると、まさに同じ感染国としての「運命共同体」的な見方も出て、今度は日本を支援しようという声が中国のメディアなどでわき上がってきた。
中国ではこのような日中友好熱が高まっているものの、日本では全くそのような状況にはない。日本政府は対中関係改善政策を進め、習近平訪日を歓迎している。だが2019年の世論調査では、日本の対中感情は改善していない。新型肺炎はむしろ、かつてのいわゆる毒ギョーザ事件のように、「災い」が中国から到来したとみなされるだろう。さらに尖閣諸島周辺での中国の公船の活動はむしろ活発になっている。日本社会の中国観は依然厳しい。
日中間の相互認識のギャップは、このようにして拡大している。日本の世論は安倍政権の対中政策にも一定程度影響するであろう。また日本社会が習氏の訪日に際して示す反応は、当然中国の期待に反して冷淡になり、中国側を失望させるだろう。それは中国側の期待値が大きいからなおさらである。日中相互に、相手社会が自らへと向ける目線をそのまま受け止めていく姿勢が必要だろう。