2020年、日立製作所は創業110周年を迎える。2009年3月期に7873億円の最終赤字を計上した翌年、当時の会長兼社長・川村隆氏の下、「脱・総合電機」を宣言し、グループ再編と構造改革に取り組む。
2010年、中西宏明氏に社長を交代し、引き続き不採算事業の整理を進め、2011年3月期にはV字回復を達成するとともに、あらためて真のグローバル企業への変革を宣言する。
2014年、バトンは東原敏昭氏に託され、2期連続で最高益を更新。2018年までの中期経営計画の目標であった営業利益率8%超を達成。2021年までの中期経営計画では、社会イノベーション事業でグローバルリーダーになることを掲げる。もちろん、企業変革に終わりはないといわれるように、日立の改革はいまなお続いている。
現在、小国にも匹敵する30万人という大組織のチェンジリーダーである東原氏は、この巨大グローバル組織を自律分散型に変えようと、世界中の現場を奔走し、「共感」や「利他」など意味深長な語彙とメッセージを発信し、組織にゆらぎを与え続けている。
それらはしかるべきロジックで結ばれており、相互に補完・強化する関係にある。その背後には、東原氏が言うところの「アルゴリズム」が働いており、それによって一つの好循環システムが形づくられている。本インタビューでは、その因数分解を試みながら、東原経営のメカニズムを解明していく。
「選択と集中」の
基準とは何か
編集部(以下青文字):2019年末、日立御三家の一つ、日立化成を昭和電工に売却する決断を下されました。川村さんと中西さんの時代、「近づける事業」(強化する事業)と「遠ざける事業」(転換すべき事業)という表現で、事業ポートフォリオ改革に着手し、そのバトンは東原さんに引き継がれました。一連の改革は依然継続中のようですが(図表「選択と集中の軌跡」を参照)、どのような判断基準によって強化する事業と転換すべき事業を分けているのですか。
東原(以下略):現在、当社の事業領域は、「モビリティ」「ライフ」「インダストリー」「エネルギー」「IT」の5つに分類されています。そして、これら5つの事業領域は、Lumada──“illuminate”(照らす)と“data”(データ)を組み合わせた造語です──というデジタルプラットフォーム上で結ばれ、お客様の課題を解決するソリューションを開発・提供します。
最終的には、スマートシティのように人々のQOLを向上させる方向、もしくは経営者のKPI(重要業績評価指標)を向上させる方向へ収れんされていくだろうと考えています。いずれも、我々の目指す「社会イノベーション事業」であり、政府が標榜するSociety5・0や国連のSDGs(持続的な開発目標)とも大きく重なります。
事業の選択と集中を進めるに当たっては、コモディティ化していく事業や収益性の低い事業から撤退する一方、先ほど申し上げた5つの領域においてLumadaとの相性のよい事業を近づけ、そうでない事業は遠ざけていく。もちろん、我々が100%コントロールできる事業に限ります。
親子上場の問題は、いろいろ物議を醸しています。
上場子会社である日立化成、日立金属、日立建機、日立ハイテクノロジーズの4社については、過半数を超える51%の株式を保有しているからといって、他の株主の方々に対して我々の意向を押し付けるつもりはまったくありません。
子会社の事業戦略は、本来各社の経営陣や取締役会が考えるべきことで、あくまで個々の判断に委ねています。これら4社についても、グローバル競争を勝ち抜いていくには、日立グループの力をもっと活用したほうがよいのか、あるいは社外のパートナーを探して、組んだほうがよいのかを考えてもらっています。たとえば、日立化成の場合、ニーズの変化や競争が加速する化学・高機能材料の分野において競争力を高めていくため、昭和電工による株式公開買い付けに応募することにしました。