フォロワー18万人超!仏教の視点をもって、国内外の方々から寄せられた「人間関係」「仕事」「恋愛」「健康」などの相談に応える YouTube チャンネル「大愚和尚の一問一答」が人気爆発。
「実際にお寺に行かなくてもスマホで説法が聞ける」と話題になっています。
その大愚和尚はじめての本、
『苦しみの手放し方』が、発売になりました。
大愚和尚は、多くのアドバイスをする中で、
「苦しみには共通したパターンがある」「多くの人がウソや偽りを離れて、本当の自分をさらけ出したいと願っている」「苦しみを吐き出して可視化することによって、人は少し苦しみを手放すことができる」ということに気づいたといいます。
そんな和尚の経験をもとに、この連載では
『苦しみの手放し方』から、仕事、お金、人間関係、病気、恋愛、子育てなど、どんな苦しみも手放せて、人生をもっと楽に生きることができるようなヒントになる話をご紹介していきます。

【大愚和尚】他人を生かすための行動は、回り回って、「自分を生かす」

仏教の言葉に
「発菩提心(はつぼだいしん)」という言葉があります。
「自分以外の誰か、何かのためになりたいと願い行動すること」
です

 2011年3月11日、「東北が未曾有(みぞう)の被害に見舞われた」ことを知った私の友人は、愛知県名古屋市からトラックを走らせ、すぐに被災地に向かいました。
 彼が乗るトラックには、「カレー」の材料が、めいっぱい積んでありました。混乱する被災地に県外から入るのは、容易ではありません。数日かけて宮城県石巻市に入った彼は、石巻市内の小学校で、自衛隊と協力しながら、カレーの炊き出しをしました。
 「被災地の力になりたい」という彼の献身性は、一時的なものではありませんでした。家族とともに東北に移り住み、現在も、支援活動を継続しています。

 彼の名前は、セイエド・タヘル。パキスタン出身のイスラム教徒です。
 タヘルさんが、命懸けで支援活動を続けているのは、彼もまた、たくさんの日本人に助けられてきたからです。
 以前、タヘルさんは、私にこんなことを話してくれました。
 「日本は、世界で一番自然が豊かで、世界で一番親切な国です。数十年前、多くの日本人が、パキスタンから来た私を支えてくれました。だから今こそ、日本に対して、そしてお世話になった人たちに対して、恩返しをするときなんです。復興には、まだまだ時間が必要です。だから私は、自分の今後の人生を東北に捧げようと思います」

 仏教の言葉に「発菩提心(ほつぼだいしん)」という言葉があります。
 「発」は、「心を起こす(発露(はつろ)する)」こと。「菩提心」は、「自分以外の誰か、何かのためになりたいと願い行動する」ことです。
 タヘルさんは、まるで、「発菩提心そのもの」です。
 私も僧侶の端(はし)くれとして、「誰かの役に立ちたい」と思って生きてきました。
 しかし、彼には頭が上がらない。タヘルさんは、打算、計算、損得勘定を一切持たず、ただ純粋に「人を助けよう」としています。外国人であるタヘルさんから、私は「発菩提心」の本当の意味を教えていただきました。
 彼のひたむきさは、人の心を打ち、人の心を動かしました。たくさんの人たちがタヘルさんに共感し、影響を受け、支援を申し出ました。

 医療機器メーカー「株式会社東機貿(とうきぼう)」の佐多保彦(さたやすひこ)社長も、タヘルさんに共感したひとりです。佐多社長は、一般財団法人「連帯 東北・西南」を設立し、被災地支援を続けています(タヘルさんも、評議員のひとりです)。

 「自分の生活さえままならないのに、人のために生きるなんてできない」「自分が損をしてまで、他人のために尽くす気にはなれない」と考える人がいます。
 しかし、人間は「社会的動物」であり、「人の間」でしか生きていくことはできません。支え、支えられる関係の中で、人間は生きていく運命にあるのです。
 たしかに、人間は本能的に、「自分を守りたい」「自分を生かしたい」と思うものです。でも、だからこそ、「発菩提心」を発揮して、他人のために生きてみる。私利私欲に走らず、タヘルさんのように「発菩提心」を心がけると、たくさんの人の協力を得られるようになります。そして、他人を生かすための行動は、結局は回り回って、「自分を生かす」ことにつながるのです。
 自分が生きるために、他人を生かす。他人を生かすことで、自分が生きる。それが「発菩提心」です。
 「発菩提心」の思いを持って、他人のために行動をする。その結果として、自分も多くのものを与えられ、「人から応援される」ようになる。私はそう思います。

(本原稿は、大愚元勝著『苦しみの手放し方』からの抜粋です)