フォロワー19万人超!仏教の視点をもって、国内外の方々から寄せられた「人間関係」「仕事」「恋愛」「健康」などの相談に応える YouTube チャンネル「大愚和尚の一問一答」が人気爆発。
「実際にお寺に行かなくてもスマホで説法が聞ける」と話題になっています。
その大愚和尚はじめての本、
『苦しみの手放し方』が、発売になりました。
大愚和尚は、多くのアドバイスをする中で、
「苦しみには共通したパターンがある」「多くの人がウソや偽りを離れて、本当の自分をさらけ出したいと願っている」「苦しみを吐き出して可視化することによって、人は少し苦しみを手放すことができる」ということに気づいたといいます。
そんな和尚の経験をもとに、この連載では
『苦しみの手放し方』から、仕事、お金、人間関係、病気、恋愛、子育てなど、どんな苦しみも手放せて、人生をもっと楽に生きることができるようなヒントになる話をご紹介していきます。

【大愚和尚】他人のしたことと、しなかったことを見るな。自分のしたことと、しなかったことだけを見よ

Nさんは、給与よりも、スキルよりも、
大切なものを手に入れました。
それは、何だったのか?!

 人間は、他者と比較することで、自分の立ち位置や自分の価値を測っています。
 ライバル心や競争心は、ときに原動力になりますが、いつも誰かと自分を比較していると、劣等感や嫉妬心で心が休まらなくなります。
 今から5年ほど前に、会社員のNさんから、「会社での評価が低く、このまま会社に残るかどうか悩んでいる」という相談をいただきました。
 「同僚よりも自分のほうが、一所懸命、仕事をしているのに、『評価が同じ』(賞与や基本給が同じ)」であることに、不公平感を覚えていたそうです。
 仏教は、「自分自身が、どう生きるか」という、自らの生き方を問う教義です。『ダンマパダ』の中に、お釈迦様の教えとして、次の詩句が記されています。

 「他人の過失を見るなかれ。
 他人のしたことと、しなかったことを見るな。
 ただ自分のしたことと、しなかったことだけを見よ」
 (参照:『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村元・訳/岩波文庫)

 「給与が低い」と嘆くNさんに、私は、「給与は社長が上げるものではなくて、『自分』で上げるものかもしれません」とお伝えしました。
 仏教では、「他人に気を取られ、自分をおろそかにする」ことを戒(いまし)めています。大切なのは、他人の評価を気にせず、自分の心の状態を省(かえり)みることです。
 周囲の評価は、状況によって、風見鶏にように変わります。それなのにNさんは、周囲の評価に振り回され、自分を見失い、仕事がおろそかになっていました。
 その後、Nさんは、奮起します。社内を説得して新規事業(インターネット物販事業)を立ち上げ、毎月数百万円の新たな売り上げをもたらすほど、貢献しました。
 Nさんは、「これで評価が上がる。これで給与が増える」と期待しました。
 しかし、Nさんの評価は、変わりませんでした。それどころか、Nさんは営業部から経理部に異動になり、「会計業務」を任されることになったのです。
 不承不承(ふしょうぶしょう)、異動を受け入れたNさんでしたが、「お金の流れ」を管理するようになって、気がついたことがありました。
 それは、「既存事業の強化や新規顧客の獲得のために、会社が積極的に利益を再投資している」ことです。
 Nさんの会社は創業年数が浅く、まだ成長途上です。利益を社員に還元するより先に、販促費として使い、経営の安定化を図る必要がありました。「あのとき自分の給与が上がらなかったのは、会社の成長を優先したからだ」。Nさんは、社長の真意を理解したのです。

 私のところに相談に来てから、3年後。ようやく社長から、「給料を上げようと思っている」と提案があったそうです。けれど、Nさんは「給与を上げていただかなくていい」とその申し出を断りました。
 「わずかかもしれないがその分のお金を再投資すれば、会社はさらに大きくなる。そうなれば自分も、もっと大きな仕事ができる」と考えたからです。
 「他人のしたことと、しなかったこと」を見ず、「自分のなすべきこと」に注力した結果、Nさんは、給与よりも、スキルよりも、大切なものを手に入れました。それは、「信用」です。自分を内省するようになったNさんは、周囲から「なすべきことをひたすらやる人だ」と認められるようになりました。Nさんは今、「最年少取締役」として活躍しています。
 大切なのは、「自分がどのような行為をしたか」です。
 人のことをとやかく言うのではなく、「ただ、自分がどうであるか?」を冷静に観察することで、他者との比較から生じる妬みや劣等感から逃れることができるのです。

(本原稿は、大愚元勝著『苦しみの手放し方』からの抜粋です)