例えば「履歴書は手書きでなければ」という意見をしばしば見ますが、読みやすさや電子化を考慮すれば、それが良いことだとは思えません。労力をかけることは、おもてなしとは違います。あくまでも労力は手段であり、より良い代替手段があるのならば、それを採用すればよいのです。

「機械イコール無機質」というのは古い考え方です。確かに、チャットのカスタマーサポートでは人は見えませんし、相手は人間ではなく、一次的にはAIが受け付けているかもしれません。でも、それで十分な対応ができるのであれば、別に構わないと私は思います。効率面での話だけでなく、中には雑談ができるチャットボットだってあります。そうした雑談もまた、楽しめばいいのではないでしょうか。

AIにさえ意図をきちんと伝えられない
日本人は本当にハイコンテクストか

 スマートスピーカーに採用されているボイスUIとの対話は、人間との自然な会話と同じようなわけにはいきません。聞き方を工夫するとか、言い方を変えてみるといった試行錯誤が、ある程度必要です。もちろん、機械の方だってよりスムーズな聞き取りができるよう、進化する必要はあるでしょう。しかし、そもそも相手が機械でなく人間であっても、話が伝わらないときには上手に質問ができていないことを疑うべきではないでしょうか。

 アマゾンのアレクサでは「スキル」と呼ばれる対話モデルを作成して、デバイスが音声で人間の問い合わせに答えられるようにします。グーグルアシスタントのアプリでも同様です。これらの仕組みを使って人間と機械との対話を実現するためには、いきなりプログラミングからスタートするのではなく、まずは「カンバセーションデザイン」といって、会話の流れを設計する必要があります。「アレクサ、○○して」「OKグーグル、○○って何?」といった発言に対してどう返事をし、何を行うかを決め、会話が成り立つようにしてから、プログラミングに入るのです。

 私は、このカンバセーションデザインを行ったことで、気づいたことがありました。我々は人と人との対話に当たって、必ずしも会話の流れを設計し、会話が成り立つようにしていないのではないかということです。本来は人と機械だけではなく、人と人との間でも、きちんと会話が成り立つように考えるべきであるにもかかわらず、です。