実は、従来の公共交通機関を使ってどこかへ移動するときにも、人は交通網という既にある仕組み、システムにわざわざ合わせて行動しています。UbERPoolのようなシステムは、それがより便利になったものと考えればよいのです。人がシステムに合わせることは、必ずしも、ディストピアのようなものではないと感じ取っていただけるでしょうか。
こういう例もあります。日本企業ではERPパッケージを導入する際、過剰なカスタマイズをするケースがしばしばあります。これは自社の業務フローを変えずに、パッケージの方を合わせるために起きることですが、本来ならば、業務フローの方をソフトウエアに合わせればよい場合も多いのです。ERPパッケージは「多くの会社で効率的と考えられる業務プロセス」に沿ったフレームワークとして開発されています。商習慣や法律など、日本独自の開発が必要な部分もあるとは思いますが、フレームワークに業務を合わせた方が効率的なことが多いはずです。
社会の効率化が急速に進むときには、自分がそこへ入り込んでいくことができるかどうかで、より利便性を得たり、能力を発揮したりできるか否かが決まってしまうことがあります。機械が人に合わせて進化するのは当然としても、人が機械や仕組みに合わせられれば、社会の利便性が高まり、人はより自分の能力を発揮できるようになるのです。
かつての検索エンジンでは「いかに適切な検索ワードを選んで、的確な結果を得られるか」というテクニックが、今以上に求められました。これも一種、機械に人が合わせていた例です。機械やシステムとのインターフェースを補完できて、使いこなせると有利になるケースは以前からありましたし、これからも常にあるでしょう。
機械を使いこなせない人はついつい、ITの側が進化しきっていないことを使わない理由にしてしまいがちです。進化しきっていないのは確かに事実なのですが、今後はより一層「機械側に人間が合わせる」ことで有利になり、競争力を付けられることが多くなっていくのではないでしょうか。
(クライスアンドカンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)