『HOW FINANCE WORKS ハーバード・ビジネス・スクール ファイナンス講座』は、ハーバード大学のオンラインのファイナンス講座(Leading with Finance)をベースにテキスト化された教科書です。ファイナンスの教科書といえば、堅苦しいイメージですが、本書は少しイメージが違います。アマゾン、ネットフリックス、スターバックス、アップル、ナイキ…誰でも知っている企業の最新の財務データを使って、経済ニュース、金融ニュースなどをからめながら基礎的なファイナンスの知識を身に着けていきます。そのエッセンスをコンパクトに紹介します。

もしもアマゾンがeベイと合併したら? ハーバードのファイナンスの授業ではこう教えるPhoto: Adobe Stock

企業価値評価ミスの3つの理由とは?

M&Aに伴って企業価値評価をするときによく仕出かすミスに目を向けよう。評価はアートであって、科学ではない。だから、さまざまな判断をしなければならない。買収を発表した後に買収側企業の株価が下がるのは、よく見られることだ。払い過ぎて、価値を買収の標的に移してしまうのではないかと予想される結果だ。

となると、どうしてもこの質問が出てくる。なぜ会社は、いつも払い過ぎるのだろう? 評価プロセスで何か間違ったことをしているからに違いない、というのがその答えだ。ここでは3つの大きなミスを取り上げよう。

ミス1 インセンティブを無視する

最初のごく一般的なミスは、買収に関わる人たちのインセンティブを無視しがちだということだ。当然、資産の売り手は買い手に対し、過大に払ってもらいたいと思う。そして売り手は、過去の財務情報を含む重要な情報をコントロールしている。

この問題は、情報の非対称性の問題を思い出させる。売り手は売却に備えてどんな準備をすると思うか? 売上を加速させ、費用の発生を遅らせ、投資を抑えて、よく見せようとしてきたのではないか? このことから、買収ではデュー・デリジェンスがきわめて重要なプロセスとなる。

問題は売り手にとどまらない。通常、投資銀行は取引が成立して初めて手数料を受け取れる。だから、取引してもらいたいと思う。社内でも、買収案件の分析をした人は屈折したインセンティブを持つ。彼らは、昇進して買収したばかりの新部門の経営を任せてもらえるかもしれないと期待する。取引に関与した人はみな取引が成立してほしいと思うから、微妙に前提や予測を変更し、その成果が現実のものとなるようにしようとする。その結果、バランスの欠けた情報がまかり通り、支払い過多や自信過剰をもたらしてしまうのだ。