10%成長ではなく10倍成長を目指す「10x」思想
Chrome bookはOKRから生まれた

 及川氏は、挑戦的な目標を掲げることを求めるOKRの有効性を、「10x(テンエックス)」というキーワードで説明する。

「10xとは10%成長を目指すのではなく、10倍成長を目指せという考え方。スタートアップ的な成長を続けられる会社は、常にスケール(規模の拡大)することを考えている」(及川氏)

Tably代表取締役 テクノロジーイネイブラーの及川卓也氏
OKRは「10x」「ムーンショット」と呼ばれる飛躍的な目標を実現するための目標管理手法だとも語った、Tably代表取締役 テクノロジーイネイブラーの及川卓也氏 写真提供:Tably

 10xという思考法はグーグルの文化としても息づいている。例えばグーグルの「Chrome OS」を搭載したノートパソコン「Chrome book」。今ではテレビCMでも「最短6秒で起動」とうたう製品だ。及川氏によれば、開発段階から「電源を入れてから10秒でGmailが使える製品にする」という目標を立てていたのだという。

 これまでノートパソコンでメールの送受信をしたければ、電源をオンにして起動、ユーザー認証、ログインなど、実際のメール機能を使うまでに5分かかることも珍しくなかった。もしも“10%改善”という発想ならば、目標は4分30秒となり、アイデアも既存製品の延長線上での改良にとどまっていたかもしれない。

 ところがこれを10秒と掲げたのは、非常に高いハードルだ。既存のシステムを多少高速化する程度では絶対に実現できない。開発チームは全てのアプリをブラウザーのChrome上で動かすようにし、必要ないモジュールを排除するという新しい発想でChrome OSを開発し、10xのような思想の目標実現に至ったのだ。

会社員がOKRを導入するポイントは?
ありがちな失敗は「目的と手段の混同」

 及川氏はグーグルの他にも複数の外資系企業でプロダクトマネジャーやエンジニアリングマネジャーとして活動。その後、スタートアップ企業を経て独立し、今は企業に対して技術戦略などを助言している。最近はOKRの導入など、大企業からの相談も増えているという。実際にOKRを導入するには何が必要になるのか。

 及川氏によれば、「OKRを導入したいという意思を持ち、意思決定ができるポジションにいる人物をまず1人見つけることがその第一歩」だという。

「経営陣が全社向けのOKRを設定するだけでもいい。特定の部署やプロジェクトの一部から始めるのもよいだろう。大切なのは熱量だ。OKRで(モチベーションが)“死んでいる社員”を生き返らせることは難しい。しかし、死にかけてはいるが、今の環境を改善して頑張りたい人たちの能力を発揮させることはできる」(及川氏)。

 OKRのよくある“落とし穴”は「目的と手段の混同」(及川氏)だという。OKRでは前述の通り、目標(O)達成のための定量的な指標(KR)を設定する。このKRは“結果”を書くべきなのだが、“手段”を書くケースが散見されるというのだ。

 例えば、「商品の認知度向上を目指す」という目標の達成のため、KRに「イベントに3回登壇する」と設定してしまうケースだ。「3回登壇」は定量的な数字だが、手段にすぎず、目的の認知度が向上したかどうかは分からない。本来ならば「市場調査を実施し、認知度をA%にアップさせる」「イベントに3回登壇し、参加者のアンケートで満足度をB%以上にする」といったことをKRに設定しなければいけない。KRを正しく設定すれば、自社製品の認知度を定量的に測定するための調査設計など必要な行動も見えてくる。