「組織の三菱」「結束の住友」に対し、「人の三井」の旧三井財閥の流れをくむ三井物産。そのDNAを呼び覚ますべく、全社的なプロジェクトが今、社内で進められている。彼らが志向するのは、強い個の力の覚醒、そして巨大化した商社各社に共通してまん延する縦割り慣行の打破だ。特集『最後の旧来型エリート 商社』(全13回)の#10では、現場で模索を続ける物産マンたちの姿を紹介する。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
ヤンキースタジアムで発見した
新たなビジネスの“種”
米ニューヨーク・ヤンキースタジアムの天然芝は夏の日差しを反射し、鮮やかに輝いて見えた。2013年7月、三井物産の平田英人は、小学1年生の長男と共に米メジャーリーグを代表する名門球団本拠地の観客席にいた。
その日は、元メジャーリーガーの松井秀喜が、かつて在籍したニューヨーク・ヤンキースのユニホームを着ての引退セレモニーが行われることになっていた。平田は当時ニューヨークに駐在中で、休日のその日、同年齢でもある松井の勇姿をどうしても長男に見せてやりたかった。
松井を最も近くで見られる一塁側ベンチ裏の最前列席を予約しようとしたが、価格は1000ドル以上した。外野に3ドルの席もあったが、それでは遠過ぎる。平田が見つけたのが、1000ドル超の席から2列後ろの500ドルの席だった。長男と2人で計1000ドル。一生に一度しかない体験価値として、決して高くないと感じた。