先ほどの最新のジャーナルを常に読みこなすような研究オタクや、現場の鬼(特殊で高い専門性を持つ人)は、一般的に言えばかなり変わった行動特性を持つ。故に、上記のような評価システムを下手に活用すれば、彼らは「目指してはいけない姿」になってしまう可能性がある。

 加えて、現在の中核社員に求められる業務量は半端ではない。具体的な社員一人ひとりのキャリア面談からコンプラ対策、パワハラ・セクハラ対策、戦略性も必要なのでそのトレーニング……。顧客に価値を提供するためではなく、組織の維持、運営のためのタスクが業務の半分以上を占める。これらを全てこなしつつ、研究オタクや現場の鬼を目指せと言っても無理があるだろう。

「変人」の能力を理解し使いこなす
スーパーエリートが必要

 こうした突き抜けた特性を持つ人材を生かすために、本来はもっと専門職制度を機能させるべきであった。しかし、専門職制度でできたことといえば、せいぜい管理職不適格者をラインから外して、その人たちが管理職になる弊害をなくしただけだ。それはそれで一定の価値があるとはいえ、専門職制度を十分活用するためには、研究オタクや現場の鬼のような思考の持ち主を早めに見つけ、徹底的にやりたい仕事だけをやらせる一方で、「面倒くさい」こうした人員を自由に使いこなすことのできる、どんな領域にも一定以上の理解力と具体化力を示す高い総合力を持つ、スーパーマン、スーパーウーマンを育成しなければならない。

 というのも、研究オタクや現場の鬼は、自分の価値をしっかりとわかってくれる人間にしか心を開かないし、相手に力量がないと見るや、自分の中に閉じこもってまともに話すらしない傾向にあるからだ。特殊で高い専門性を持つ人を巻き込んでチームに組み込めるマネジメント能力は、全ての分野にある一定レベル以上の知見を持ち、あらゆる多様性を包摂できる人でなければならない。それには、そうした才能のある人を選別し、徹底的なエリート教育をしなければ育成できない。

 労働時間が短くなり制約条件が増加している日本の企業がこのまま何もしないでいると、とにかく何もかも、「そこそこ普通に」「それなりにできる」「のっぺりした秀才」ばかりになってしまう。もちろん平均的な優等生も含め(業務上は、平均的な優等生も大いに必要である)、多様な能力を持った人が活躍でき、ある意味「面倒くさい」人たちをうまく使える組織を作るためには、もっと大胆かつ計画的に多様な「人種」(外国人や女性という属性のことだけを言っているのではない)を採用し、育成することが必要だろう。イノベーションを起こせるのは、多様性があってこそである。

 ここでは研究オタクと現場の鬼を例に挙げたが、その種類は会社によって異なる。ただしその数はどんな会社であっても10や20を下ることはないはずだ。少なければ結局、能力の多様性を組織の中で縮減させてしまうことになる。

 会社というものを、ある程度何をやってもいいような“カオス”に戻すのが無理だとすれば、計画的に「変人枠」を作ることでしか、多様な「種」の減耗を防ぐことはできない。ダイバーシティーという考え方は、男女とか国籍といった属性だけではなく能力という意味でもこれからの時代の企業に必要不可欠なのである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)