自動車や電子部品など国内製造業にはコロナショックに耐えられるだけの基礎体力が残されているのか。製造業245社を対象に、リーマンショック前とコロナショック前とで「利益圧迫度」を算出し独自のワーストランキングを作成した。「利益圧迫度」が高ければ高いほど赤字に転落するリスクが高くなる。特集『電機・自動車の解毒』の#08では、固定費地獄に喘ぐ製造業の実態に迫る(ダイヤモンド編集部 竹田孝洋、浅島亮子)
赤字に転落しやすい企業は?
「利益圧迫度」ランキング245社
新型コロナウイルスが国内にまん延して以降、初めての「通期決算の集中ウィーク」を迎えている。コロナショックが電機・自動車など製造業へ与えるネガティブインパクトは大きく、決算会見に臨む大物経営者の発言に注目が集まっている。
日本電産の永守重信会長は「従業員にはピンチはチャンスと言っている。車載は売上高が半分になっているが、それでも利益を出す」といつもの永守節は健在だった。
売上高が半分になっても黒字にするとは無理筋にも聞こえる。それでも、永守会長の強気の背景には、コスト構造の抜本見直しにより損益分岐点(利益ゼロの時の売上高)を大幅に引き下げられるという自信があるようだ。“10年に1度の大掃除”と銘打ち、コロナショックを機に固定費の圧縮に臨む姿勢を示した。
日本の産業界が固唾をのんで見守っていたのが、トヨタ自動車の決算だろう。世界でのコロナの終息が見通せず、業績見通しの開示を見送る企業が続出する中、トヨタがどんな決算数字をつくるのかに関心が寄せられていたからだ。トヨタの出した答えは「21年3月期の営業利益5000億円(前期比79.5%減)」。8割減という凄まじい落ち込みではあるが、何としても黒字を確保するという強烈な意志を示した格好だ。豊田章男社長は「今回のコロナショックはリーマンショックよりもインパクトがはるかに大きい」と厳しい認識を示しつつも、リーマンのときよりもトヨタでは企業体質の改善が進んでいることをアピールした。
中でも強調されたのが、固定費のコントロールによる収益改善の軌跡だ。リーマンショック前後から直近までを四つのタームに区切って、企業体質の改善のステップが説明された。
(1)リーマンショック直前の3年間(05年3月期〜08年3月期)
固定費が大幅に増加。規模拡大のスピードが人材育成のスピードを上回った
(2)リーマンショック直後の1年間(08年3月期〜09年3月期)
販売台数の大幅減で赤字に転落
(3)社長就任後の4年間(09年3月期〜13年3月期)
研究開発費、設備投資を急激に投資することで固定費を圧縮。将来の投資も含めて全てを「やめた」
(4)直近の7年間(13年3月期〜20年3月期)
「もっといいクルマづくり」を加速するための投資や、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化など四つの技術トレンド)対応に向けた投資で固定費は増加。原価改善により固定費増を吸収しながら体質強化
そして、コロナショックはリーマンショック時以上の販売台数減が予想されるが、それでも黒字を確保する。「これこそが企業体質を改善できた成果だ」(豊田社長)と胸を張ったのだ。
日本電産もトヨタも自動車の販売動向の影響をストレートに受けるメーカーだ。業界関係者の見立てでは、21年3月期の世界の自動車販売台数は前年比「20%減」の7100万台程度となることが予想されている。日本電産もトヨタも、仮に売上高が2割落ちても、固定費の削減でしっかりと黒字を確保できると自信を見せたのである。
果たして、日本の製造業にはコロナショックに耐え得る企業体力が残されているのだろうか。