2012年以降相次ぐ社員の自殺や労災認定を受け、三菱電機は今年1月に再発防止策を発表した。だが、「問題と向き合っていない」「これで体質が変わるとは思えない」と、遺族代理人や被害者の見方は厳しい。日本の電機業界の優等生と見られてきた三菱電機で何が起きているのか。特集『電機・自動車の解毒』(全17回)の#10では、三菱電機の労務問題とその背景に垣間見えるムラ意識に迫った。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
「ブラックもクソも関係あるか!」
新卒1年目から日常的なパワハラと長時間労働
大学博士課程を終え、男性(当時20代後半)が三菱電機に研究職で入社したのは2013年4月。約3カ月の研修を終えて仮配属された神奈川県鎌倉市の情報技術総合研究所光・マイクロ波回路技術部(通称「マコウブ」、名称は当時)レーザ・光制御グループに、問題の上司(グループマネジャー)がいた。
男性の主な業務は民生用のレーザーの研究開発。仮配属当初は残業がなかったが、同じグループの先輩社員8人ほどは深夜まで残業したり、グループマネジャーからパワハラを受けたりしていた。男性は徐々に不安を覚えるようになる。
年末頃から日常業務に加えて年度末の研修論文発表を控え、残業が増えた。午前8時半出社、午後10時半退社が基本で、深夜や未明までの残業、休日出勤も当たり前のようにあった。時間外労働は毎月80時間を超え、160時間という月もあった。それでもグループマネジャーからの指示で、残業時間のほとんどを自己啓発や休憩時間だったことにして、過少に申請させられた。
同じ頃からグループマネジャーのパワハラが自身にも向かうようになった。「死ぬ気でやれ」「命懸けでやれ」などと言われるのは日常茶飯事。14年2月ごろには、グループミーティングの場で、「ブラックもクソも関係あるか。研究者なんだから自分を高めるために土日もやれ」と怒号が飛んだ。直前の週末に休日出勤しなかった先輩社員に対するものだったが、男性も自分に言われているように感じ、凍り付いた。4月ごろには「おまえの研究者生命を奪うのは簡単だぞ」と脅された。
男性は徐々に、体調に異変を来すようになった。