写真:黒人死亡事件の抗議デモ
米ニューヨークのタイムズスクエアで行われた、黒人死亡事件に対する抗議デモの様子(2020年6月7日) Photo:Ira L. Black - Corbis/gettyimages

 米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」の注目記事の要点を短時間でまとめ読みできてしまう『WSJ3分解説』。今回は、予想外の好転を見せた5月の米雇用統計の結果を受け、株高の勢いを増す米株式市場を取り上げます。コロナ禍の脅威を払拭するには至らず、足元では黒人死亡事件に対する抗議デモが全米で燃え広がる中、なぜ市場はそうした悪材料を無視して株高を続けるのでしょうか。米金融街「ウォール・ストリート」の名を冠するWSJの記事から読み解きます。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)

世界中のエコノミストが予想を大外し
サプライズ演じた5月の米雇用統計

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「雇用崩壊」の様相を呈していた米国。4月の米雇用統計で明らかになったのは、非農業部門の雇用者数が前月比で2000万人超も減り、失業率は戦後最悪を更新する14.7%に達するという恐ろしい状況でした。

 ところが、6月5日に発表された5月の米雇用統計では、逆の意味で目を疑うような結果が飛び込んできました。前月比で非農業部門の雇用者数が250万人の増加に転じ、失業率は13.3%に低下したというのです。

「統計は完全に予想を覆した」

 米有力経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」は次の記事で、その結果の衝撃を報じています。

●「ウォール・ストリート・ジャーナル」より
>>米雇用に危機脱出の兆し、先行きに尽きない疑問

「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がまとめたエコノミスト調査では、就業者数が830万人減少し、失業率が19.5%に達すると見込まれていた」

「こうした数値はかなりの不確実性を含んでいたが(予想は220万~1140万人減と幅広かった)、改善を予想したエコノミストは1人もいなかった」

 世界中のエコノミストが5月も大幅な雇用者数の減少を予想していたところだったので、思わぬポジティブサプライズでした。WSJは「全体像として、雇用市場は恐らく5月に上向き始めたこと、そして6月は改善に向かうのみである様子がうかがえる。一例として、娯楽や接客業界の雇用は、全体の持ち直し分のおよそ半分を占めた」と分析しています。

 この結果を受けて、米株式市場は株高の勢いを増していきます。週明け8日のダウ工業株30種平均の終値は2万7572ドル。今年初めてとなる6日連続の値上がりを記録しました。さらに、IT関連銘柄が多いナスダック総合株価指数は同日、今年2月19日に付けた過去最高値である9817を上回る9924で取引を終えました。

 ですが、WSJは同記事で次のような懸念にも触れています。

「ただ、雇用統計は修正されるうえ、新型コロナウイルス危機のさなかでデータ収集が困難なことや、危機による経済混乱の規模を踏まえれば、大きく修正される可能性がある。例えば労働省によると、失業率の計算に用いる調査の回答率はわずか67%にとどまった。これは危機前より15ポイントほど低い。労働省の手が届かない人々の失業率は、恐らく他より高いだろう」

 それ以外にも、米国は現時点でコロナ禍の脅威を払拭するには至っておらず、世界中で懸念されている第2波襲来リスクもあります。香港情勢を巡る米中対立も緊張が高まっており、さらに足元では、白人警官に首を圧迫されて黒人男性が死亡してしまった事件を巡って、全米で抗議デモが燃え盛っています。

 こうした悪材料が散見される状況でも、市場がそれらを無視して株高が進むのはなぜなのでしょうか?

 米金融街「ウォール・ストリート」の名を冠するWSJの記事から読み解いていきましょう。