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米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」の注目記事の要点を短時間でまとめ読みできてしまう『WSJ3分解説』。今回は、中国発の人気動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を巡る米中対立について取り上げます。中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)から舞台を移した両国の経済戦争は、米アップルにも飛び火しかねない情勢です。中国が今最も恐れていることとは?激突する米中の思惑をWSJの視点で解説します。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)

マイクロソフトが
TikTok米国事業買収へ

 これほど高度な国際政治の力学が背景で働いている大型M&A(企業や事業の合併・買収)は、そうお目にかかれるものではないでしょう。

 米マイクロソフトが中国の人気動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業買収に向けた交渉を進めています。米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は次の記事で、そのことを伝えました。

●「ウォール・ストリート・ジャーナル」より
>>マイクロソフト、TikTok買収交渉継続 9月15日までの合意目指す

「マイクロソフトは(中略)米国事業買収の可能性についてTikTokの親会社『北京字節跳動科技(バイトダンス)』との協議を迅速に進め、9月15日までに合意を目指すと述べた」

 この動きの背景にあるのが、米中対立です。

「複数の米当局者は、TikTokが米国民から収集したデータを中国政府に渡す可能性があると懸念を示してきた。TikTok側はそうしたことは絶対にしないと述べている。当局はまた、アプリが中国のプロパガンダを広めるために使用される可能性があることや、プラットフォームの管理担当者が中国政府の顔色をうかがってコンテンツを検閲していると懸念している」(WSJ)

TikTok巡るM&Aが
トランプ大統領の「ディール」に?

 この買収劇にはドナルド・トランプ米大統領が大きく干渉しています。同記事にあるように、WSJなどのメディアが7月31日、マイクロソフトがTikTokの米国事業買収に関心を持っていると報じた直後、「トランプ氏が買収に反対しアプリを禁止する姿勢を示したことから、マイクロソフトとバイトダンスの交渉が一時中断」(同)。暗礁に乗り上げました。

 ところが、8月3日には一転、トランプ氏は買収を容認する姿勢を示しました。ただ、そこにはある「条件」が課されそうです。

●「ウォール・ストリート・ジャーナル」より
>>トランプ氏、TikTok買収容認も米政府に支払い必要

 同記事によると、トランプ氏はマイクロソフトやその他の米企業によるTikTok買収に反対しない姿勢を示したものの、なんと「買収を進めるためには政府への支払いが必要との見方を示した」(同)というのです。

 トランプ氏は8月2日、マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)との会話の中で、「『安全保障上の理由から中国の管理下に置かれることはありえない』と言った」そうです。また、「マイクロソフトであれ、他の大企業であれ、大きくて安全なアメリカ企業であれば、どこが買っても気にしない、と語った」といいます。

 しかし、「条件」を伝えることも忘れませんでした。トランプ氏は「『この取引を可能にしているのはわれわれなので、買収するのであれば、(中略)その金額のかなりの部分は米財務省が受け取らなければならないだろう。』とナデラ氏に伝えたそうです。「今のところ、われわれが権利を与えない限り、誰にもそうする権利はない」というのがトランプ氏の言い分とのこと。

 最初に買収反対を表明したときから、トランプ氏はこのM&A案件を「ディール(取引)」だと考えたのではないかと思うような展開になってきました。

 ただ、トランプ氏の心中はどうであれ、中国にとって初めてアプリの世界でグローバルな勢力拡大に成功していたTikTokの覇権を脅かされたことに、中国は激怒しています。これまで、華為技術(ファーウェイ)の通信機器というハードの世界で繰り広げられてきた米中経済戦争は、アプリというソフトウエアの世界に戦場を移しつつあります。米中による経済戦争は新次元に突入したといっていいでしょう。

 そして、TikTok問題はその序章にすぎないかもしれません。中国側がこの問題で最も恐れていることは、TikTokの「さらに先」にあるとみられるのです。

 米アップルまで巻き込んだ経済戦争に発展しかねない中国側の反応について、WSJの視点からさらに詳しく解説していきます。