米国経済はまだ楽観できない、コロナ対策総動員でも残る「調整リスク」食料の無料配布の列に並ぶ市民(ニューヨーク・ブルックリンで) Photo:Andrew Lichtenstein/gettyimages

米国は、コロナショックで市場が混乱に陥るやいなや矢継ぎ早に、市場安定、経済下支えに向けて金融・財政政策面であらゆる手段を講じた。そのかいあってか、二番底の懸念は消えないものの、株式、社債市場は落ち着きを取り戻している。ただ、足元の雇用環境、消費動向は大きく悪化し、回復は緩やか。当然ながら、2020年のマイナス成長は不可避。新型コロナウイルスと共存しつつ進める経済活動再開のペースが鍵を握る。(米国みずほ証券USマクロストラテジスト 石原哲夫)

「株以外、全て買う」姿勢で
市場下支えに奔走したFRB

 米国のコロナショック対策は非常に迅速だった。財務省とFRB(米連邦準備制度理事会)は、打てる施策はなんでも打った感がある。まず、これまでの矢継ぎ早の施策を振り返ってみたい。

 下表の通り、3月17日から1カ月弱の間に、一連の流動性供給ファシリティーで財務省とFRBは積極的に各市場に流動性を供給し、市場機能を維持・確保していった。

 このうち、特に重要だったのは高格付け企業のCP(コマーシャルペーパー)を事実上買い取るCPFF(コマーシャル・ペーパー資金調達支援措置)、米国債と政府系のMBS(住宅ローン担保証券)を無限に購入すると宣言した「QEインフィニティー(無制限)」。

 そして、投資適格社債市場を支援するために、新発債、既発債、そして社債ETF(上場投資信託)や直近で投資不適格に格下げされた社債までも買い取るPMCCF(プライマリーマーケット・コーポレートクレジットファシリティー)とSMCCF(セカンダリーマーケット・コーポレートクレジットファシリティー)も目を引いた。

 なお、CPFFとPMCCFはいずれも最後の砦、つまり「バックストップ」(パウエルFRB議長)という位置づけである。利用にあたっては手数料を支払わなければならず、発行体にとっては割高な調達となるうえ、もし利用した場合、利用したことがいずれ公表される可能性が高いため、ほとんど利用されることはないだろう。

 このほか、消費者ローンを束ねたABS(資産担保証券)など証券化商品を事実上買い取るTALF(ターム物資産担保証券貸出制度)、MMF(マネー・マーケット・ファンド)が保有する資産を買い取るMMLF(マネーマーケット・ミューチュアルファンド・リクイディティ・ファシリティー)、地方債市場用のMLF(地方債流動性ファシリティー)なども矢継ぎ早に発表されていった。

 本来、FRBはこのように企業や個人に直接貸すことは禁じられていると考えられているが、金融危機時に多用したFRB緊急法を今回も活用することで、素早く創設することができた。具体的にはFRBのバランスシートに直接計上されないよう、財務省の資本を使い、SPV(特別目的事業体)を設立し、そのSPVにFRBが融資をする仕組みが多用された。