米経済が今年2月にリセッション(景気後退)へと滑り落ちた際に失われたものは、1世代に1度という雇用市場の好調さだけではなかった。労働市場のひっ迫によって、何十年もかけて上昇してきた不平等への流れを逆転させることはできるかという大胆な実験も同時に終わってしまった。この実験で分かりかけた内容は、興味深いものだった。失業率が5%を下回り、次いで4%以下に低下する中で、アフリカ系とヒスパニック系米国人、低賃金労働から抜け出せなかった人々、障害を抱えていたり犯罪歴があったりした人々など、ずっと置き去りにされていたグループの賃金が急上昇し、雇用機会が拡大したのだ。インフレが起きる兆候はなく、米連邦準備制度理事会(FRB)は状況を静観しつつ、声援を送った。FRBのジェローム・パウエル議長は先週行った上院での議会証言で当時を振り返り、「労働市場はこれまでの人生で経験した中で最高の状態だという声を、何度も何度も聞いた」と語った。貧しいワーキングクラスの人々からは「今の政策をどうか変えないでほしい。現状は本当にうまくいっている」との声が聞かれたという。
完全雇用への復帰、格差縮小のために急げ
リセッションは不平等を長期的に拡大し、是正は困難
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